Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


イスで思い出すこと(1)
2009年5月21日 18:59

本当に「いす」がなかった,キヤノン電子のオフィス

ホンダ開発、簡単に装着できる「外骨格」:画像と動画で紹介

 以前、『トヨタの闇』という本を読んだ時、トヨタの工場では、コストダウンの為に、夏にはエアコンの温度が29度に設定されているという話を知ったが、日産のカルロス・ゴーンは著書の中で、そうしたエアコンの温度調節による利益捻出は、「従業員に罰を与えているだけで、そのようなコストダウンは本質的な改革にならない」と記述していた。

 今回のニュースも、さすがに従業員を奴属化させることで悪名高い、我が国にネオリベラリズム(新自由主義)を注入する急先鋒となった経団連の二大双璧の内の片方である、“キヤノン”らしい出来事だと言える。

 そして、それに対してホンダは、ニッサン同様、従業員を大切にする姿勢があると感じさせたのが、2番目に紹介したニュースだ。

 私もこれまで、様々な会社で働き、あらゆるタイプの経営者を見てきたが、経営者を大雑把に暴力的に2つのタイプに分けると、「自分の会社が利益を上げているのは、従業員の方達のおかげ」と考えるタイプと、「仕事を与えてやってるんだから、従業員は搾取されて当たり前」と考えるタイプの、2つがいる。

★以前働いていた工場(1)
 以前、若い頃にアルバイトで働いていたとある工場で、ここは私が働いたことがある工場では比較的規模が大きい工場だったのだが、社長は、何かの発明ですでに財産を築いていたようで、非常に謙虚な人柄で、毎朝、全ての従業員の元に出向いて、「おはようございます」と頭を下げる経営者だった。私はアルバイトだったが、社員感情としては、こうした社長が経営する会社に対しては、頑張って働こうという気持ちになりやすいと私は素直に思った経験がある。
 しかし、この会社は私の在籍中に、私の経験としては“うまいタイモング”で、それまで経理を担当していた、冷淡で前の社長とは正反対のタイプの人に社長が交代した。
 そして、当然、この社長は例の挨拶はせず、アルバイトを含めて、みんなを一同に会議室に集めて、「もっと働け」とハッパをかけた。あなたが想像するように、会議が終わった後は、アルバイトの私が傍観者的に観察しても、社員の方達は新しい社長への忠誠心がみるみる失われているようだった。

★以前働いていた工場(2)

過去からの脱皮

 以前、↑にも書いたのだが、私が正社員として最後に勤めた工場でも、トヨタと同じく、エアコンの温度設定が、夏は28度、冬は20度に設定されていた。

 しかし、この工場は、大田区の町工場の中ではトップレベルでお給料が良かったのと、私はその中でも、途中入社にも関わらず、上司の課長などよりもお給料が良く、他の先輩の職人を差し置いて、自分だけ特別優遇で1000万円以上もするマシニングセンタを私の特注で買わせたりしていたので、そうした環境もあってか、少しは社長のマキャベリアンぶりにも目をつぶっていたのだが、当然、上司とは確執が生まれるし、仕事ではミスは絶対に許されないというかなり強いプレッシャーもあって、そのストレスは絶頂に達していたのだが、会社をやめる理由としては、それらが全てだったものの、キッカケは非常にささいなことだった。

 そう、この会社の経営者は、大田区の工場にありがちなノリで、いわゆるボンボン2代目社長だったのだが、この社長は若い頃に“でっちぼうこう”で働いていた時、どうやら旋盤を担当していたようで、旋盤というのは、立って仕事をするので、その頃のことを思い出したのか、機械が加工を停止して、ワーク(将来商品になるシナモノ)を交換する際に、間髪入れずにすぐにワーク交換できるよう、「全ての職人は、“立って”仕事しろ」と、ある朝突然に朝礼で命令し、反論は絶対に許さない調で朝礼を打ち切ってしまった。

 ちなみに、私も19歳の頃に最初に勤めた工場では、2台のNC旋盤を担当していて、1個10円とか20円の仕事といった感じで、ギヤの歯の部分を加工する前の状態の単純な丸い形のシナモノを削っていたが、1個の加工時間が数10秒で、2つの機械をその場でターンしながらぶっ続けで動かしていたことがあり、こうした仕事の場合は、当然立って仕事するしかなかった。(現在はこうした単純な加工品は、ロボットを使って無人で24時間稼働で製造しなければ割に合わず、私が働いていた工場は当然その後倒産してしまった)

 こうした、昔懐かしいNC旋盤の経験もあったので、社長が自分の若い頃の経験から、立って仕事をする方がワーク交換が早いと考えるのも分かるが、私が担当していたマシニングセンタは、1回の加工が数10分にも及び、その間も職人の手が遊ばないように、バリ取りという仕事をするのだが、バリが出ない旋盤加工と違って、フライスやマシニング班は、このバリ取りは結構な肉体労働だった。そして、しっかりと確実に早くバリ取りを行う為に、私もバリ取りは“座って”やっていたのだが、長いこと仕事に従事しているベテランなのだから、機械が加工を終えて加工が終わりそうになると、音とカンで気付き、その時には立ち上がって間髪入れずにワーク交換するので、社長の心配もベテランにとっては杞憂だし、1日中、更に残業までして立って仕事をして消耗するよりも、それまでの方法の方が効率的だし、長々と書いてはいるが、早い話が「ボンクラ社長は現場にクチ出すな」ということだった。

 しかし、そうは言っても、社長に逆らえない他の職人達は、仕方なく立って仕事をしていたようだが、私はそんな命令はシカッティング(シカトの進行形)で“座って”バリ取りをしていた所に、社長ご自身がやってきて、「立って仕事しろ」と言ってきた。私は、「机の上にシナモノを置いて、しっかり仕事をした方が、バリ取りも早いし、誤ってシナモノを落してシナモノが“オシャカ”(不良品)になることも防げるというのに、“立って”仕事をすることで誤ってシナモノを床に落とすと、シナモノがオシャカになったりもするし、数10秒で加工が終わる旋盤を動かしている人達と違い、自分は数10分、中には1時間近く機械を止めないこともあり、それでいて機械が止まりそうな頃にはその時に立ち上がってワーク交換に備えるので、立って仕事する必然性が感じられないので、全員が一律で立って仕事しろというのは、ようするに“懐かしい根性論”でしょ?」と冷静な口調で話すと、社長は、「そんな言い訳をするなら、もう辞めてもらってもいい」と仰ったので、私は内心「やったー!」と叫び、これで正式に社長の“お墨付き”ももらったので、安心してこの会社から“逃げられる”と考え、その場で(こうした時の為に毎日キッチリ計算していた)やめる日取りを社長に説明し、社会人としての常識ライクに、引き継ぎの時間を考慮した1ヶ月後には、私はめでたくこの会社を退社することができた。

 めでたしめでたし。

★損して得取らないおめでたいボンクラ経営者達
 現場のインサイド情報だが、上記の会社に初めて入社した頃、それまでの社員達は、新しい技術になど何の関心もなく、ワザとトロトロと機械を動かしていた。
 これもまた、大田区の町工場にありがちなノリで、日本の製造業が中国や台湾に負けた理由でもあるが、NHKのテレビ番組などが持ち上げる程、大田区など素晴らしい場所ではなく、バカげた根性論信者の経営者により、仕事の効率はガンガン悪くなっていったのが大田区の衰退の一因にある。

 例えば、製造業の経営者というのは、とにかく機械が止まっていることを嫌う。つまり、機械が止まっていること、イコール、金を生んでいない、イコール、借金やリース料がペイできない、と、ほとんど強迫観念に近い形で考えているのが町工場の経営者のほとんどで、機械が止まっていようものなら、「何で止めてるんだ! とにかく動かせ!」と、私がいた会社でも、常に社長が目を光らせていたようなのだが、皮肉なことに、社員の職人達は、社長に怒られないようにする為に、シナモノを削る送り速度を落していたのだ。(笑)

 また、こうした会社は、切削工具をケチるのも特徴的で、「工具代を節約しろ!」と、常日頃から言われていると、切削工具が早く摩耗して怒られるよりかは、切削速度を落して工具の寿命を延ばし、更には、“ゆっくりと”機械を動かすことで残業し、「収入は残業代で増やそう」という精神が蔓延しているのが、大田区の工場の一般的な姿だった。

 つまり、職人にとっては、切削速度を落とすことで、機械が止まることが減り怒られず、工具が痛まないことで工具代についてガタガタ言われず、時間が延長されることで残業することが出来てお給料が増えるという、一石三鳥になるのだった。

 また、この工場の社長は、職人が立って仕事することで、仕事が早くなると考えていたようだが、実際には、毎日残業してすでに疲れ切っている職人達に、掘った穴を埋めるべく更にムチ打って働かすことで、当然、職人のモティベーションは限界まで下がり、仕事は早くなるどころか、以前にも増して遅くなっていった。

 そして、今どき刑務所だって、“掘った穴埋める”などという仕事などさせないというのに、経営者の傲慢な態度により職人が委縮し、結果的に職場の士気も低く、新しい技術力など当然育たず、結果的に海外に負けてしまうという悪循環は、大田区の町工場の潜在的な病巣に私は思えた。

 こうして、経営者の考えるマンパワー重視の根性論は、先端的な工場では新しい技術が次々に生まれているにも関わらず、進歩思想を忘れたことで、人件費が安いにも関わらず先進的な中国や台湾の工場に負けていった訳だが、汎用の旋盤やフライス盤と違い、マシニングセンタというのは、いかに楽して儲けるかを考えるのがポイントという機械で、根性論よりかは“頭”の勝負だと私は考えていたので、お給料は良かったが、「ああ、ここもやっぱり根性論か…」と、私はこの会社を後にした。

 余談だが、この会社のメインの取引先は、キヤノンだった。(笑)

★言われなくても高かった私のモティベーション
 ちなみに、私が新しいマシニングを使い、新しい技術と新しい段取り方法で仕事をすると、それまでの職人が2週間くらいかけていた仕事を、わずか2日で終わらせてしまうなど、10%とか20%とかの効率アップではなく、5倍とか10倍とかのペースで時間を短縮できたのだが、これが、シナモノを1個しかチャッキング出来ない旋盤と違い、沢山のワークを同時に加工することで、能力次第で信じられないような効率アップが図れるマシニングの魅力で、当然、私はその特性に魅せられていたのだが、最近のソフトは、実際に加工しているシミュレーションを3Dや二次元的にも事前にチェックできるので、工具の周速や送り速度や段取り等を変えた時に、どれくらい時間が短縮できるか、現在の仕事を遂行中にバックグラウンドで確認し、「イケる」と思ったら、すぐさま次から早いスタイルに切り替えることで、時間の短縮に邁進していくのだが、こうしたスタンスは、1000分の1秒のタイム短縮を、サスのイニシャルのクリック1段までもつめることで達成しようと考える、モーターサイクルスポーツに参加していた時のものとクリソツなので、うまく私の能力が発揮できた仕事だと言える。

 しかし、自分のスタンドプレー的な実力を周りに見せつけることで、当然、他の職人達と確執も生まれるし、ストレートに意地悪されたりもするので、基本的に私は組織の一員には向かないようだが、それ以上に、ワンマンナントカの社長とはそりが合わず、ただそりが合わないだけでなく、こうした経営者の愚行を批判しようと、様々な書籍も読破したが、残念ながら、トヨタやキヤノンなど、社員を奴隷化することで本当に成功してしまうという例も枚挙に暇がなく、こうした経営者のバイブルとなっているのが『君主論』、つまりマキャベリアニズムだということも次第に分かってきた。




イスで思い出すこと(2)




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