Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


自動車社会(モータリゼーション)の欺瞞性(1)
2008年5月14日 10:59

 環境破壊という名の博物館においては、自動車は最も目立つ場所に展示されている悪名高い機械のひとつである。
 つまり、モータリゼーション、そう、自動車社会とは、未来の歴史家が評すれば、ここ100年間における人類の負の遺産と言える。

 ところで、私が幼少期に学校の図書館で見た自動車の歴史の本では、自動車はドイツで発明され、フランスで競争が行われ、アメリカで大量生産されたと書かれていたが、なにはともあれ、今から百数十年前には、現在のような形の自動車は全くこの世に存在していなかったというのは、現代人にとってはちょっと想像もつかないような話である。しかし、百数十年前には現在のような内燃機関を利用した自動車は全くなく、自動車の歴史など、たったの100年程度しかないというのは事実なのだ。

 しかし、現在における先進国の主要な輸送システムは、自動車やトラックを利用して、ほとんどが化石燃料に依存するようになってしまった。また、こうした状況を加速させた最初の国は、自動車を大量生産したアメリカだと言えるので、まずはアメリカについて調べてみるとしよう。

★いち早く自動車社会を構築したアメリカ
 アメリカ人達は、自分達の住む場所が広かった為なのか、輸送システムの発達に大きな力を注いだ結果、アメリカのGNPの20%が輸送費に占められるようになった。そして、その輸送に占める費用の内の80%が自動車とトラックに関連したものになっている。そして、これはアメリカ経済が消費する全エネルギーの25%以上にも及んでいるようだ。しかし、この費用には、輸送機器の製造費と維持費は含んでいない為、それらも含めると、輸送産業は全エネルギーの40%以上を消費しているとも言われている。
 しかし、一般の人達のイメージに反し、このアメリカの輸送システムは、年々効率が悪くなっているという。簡単に言うと、A地点からB地点に人やモノを運ぶことにおいて、だんだんと多くのエネルギーが必要になっている訳だ。
 アメリカでは、ここ100年の間に、輸送システムを鉄道から自動車、トラック、そして航空機へと大幅に転換させ、その中でも人や貨物の輸送の大半は自動車とトラックが占めている。しかし、自動車やトラックは鉄道などの大量輸送システよりも効率が非常に悪く、1人の人間を自動車で運ぶには、大量輸送システムの約2倍ものエネルギーが必要となる。また、貨物輸送に至ってはもっとひどくなり、トラックは鉄道に対して約4倍ものエネルギーが必要となる。
 こうして、アメリカでは輸送システムにおけるエネルギー需要が高まるにつれ、輸送産業は少数の大企業に集中されるようになった。フォード、GM、クライスラーという、かの有名なビッグスリーである。なぜならば、高まったエネルギー消費における費用増を吸収できるのは、こうした大企業だけとなったからなのだが、エネルギー危機が近づくにつれ、こうした大企業も生産を縮小し、小型車への生産に移行せざるをえなくなってきた。「ミニカーが生む利益はミニでしかない」とヘンリー・フォードが言っていたにも関わらず…。

 話を個人のドライバーに移してみよう。アメリカの自動車メーカーは、自分達の販売する自動車を売る為に、あらゆる手を尽くした。
 しかし、アメリカ人達がこの自動車産業の“くちぐるま”に乗せられたツケは大きかった。その第1のツケは、費用と時間である。皮肉なことに、自動車とは、A地点からB地点に行く時間を縮小させてくれるものだと信じられているが、事実は逆で、アメリカ人達は、自動車が普及するにつれて、職場からより遠い郊外に自宅を構えるようになった。アメリカでは、50年ほど前であれば、多くの人が自宅から仕事場まで歩いて帰れる距離に住んでいたが、現在では職場まで40〜50キロも離れた場所に住み、通勤に片道30分から1時間30分もかけることが普通になっている。しかし、これでは職住が接近し、歩くかトロリーバスで通勤していた50年前と時間的にはなんら変わりがないと言える。
 更にアメリカ人達は費用の面でも、自動車の購入費の他に、保険代、ガソリン代、維持費、駐車料金、高速道路通行料金、交通違反の罰金、州税と連邦税を支払い、払い終えるまでに食費より多くの金を使うハメになった。
 しかし、もっとひどいのは、自動車がもたらした死と破壊だ。アメリカの国家安全保障会議の計算では、過去200年間にアメリカが体験した全ての戦争で死んだ人よりも、自動車事故で死んだ人の方が多いという。また、交通事故によって惹き起こされた健康と財産の損失は、金額的には暴力を含めた全ての犯罪の10倍に及んでいるという。
 さらに言えば、1907年に初めてセメント舗装道路が建設されてから、自動車時代の到来と共に、アメリカでは道路の建設が突き進み、この道路建設は、世界の歴史上最も金がかかる公共事業になった。そして、アメリカでは毎年10万人以上の人が新しい高速道路建設の為に移住させられているという。
 こうした道路建設による人間の生活環境破壊により、自分達の住んでいる地域が根こそぎ破壊されていく様を目のあたりにした時の異常な喪失感や混乱状態は、心理学者の分析によると、戦時中の爆撃攻撃による破壊の後に起こる感情と同じものであるらしく、その結果、犯罪、失業、精神病などの発生も高まっているという。
 また、自動車がもちらす問題に、公害の発生も挙げられる。自動車が吐き出す排気ガスは、大気汚染の60%にも上ると言われているからだ。また、ガソリンを1リットル燃やすと、約2.6キログラムの二酸化炭素が排出され、自動車の排気ガスは、大気中に放出される二酸化炭素の30%以上、亜酸化窒素の45%を占め、地球温暖化の最大の元凶になっている。

 こうして考えると、自動車社会など何1ついいことがないと言える先進例をアメリカが示していると言うのに、昭和20年にアメリカに解体され、その後支配された日本人は、アメリカ文化に憧れ、アメリカのカルチャーの1つであるモータリゼーションの輸入に血眼となり、このカルチャーにすっかり毒されてしまった。もちろん私もその内の1人だったのだが、現在では私を含めて多くの人達が、自動車社会を受け入れたことで発生したツケの支払いに苦しむにつれ、自動車社会の欺瞞性に気付きつつある。


自動車社会(モータリゼーション)の欺瞞性(2)




www.romc.jp www.maderv.com www.bugbro.com www.bugbromeet.com