Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ブレイキング・バッド(悪の道への堕落) 2008年3月1日 16:46

 さんざん資本主義を批判し、私自身は社会民主主義の支持に鞍替えしたことを説明してきたが、実のところ、冷静に観察すれば、世界的に見て我が国ほど社会主義が成功した国も珍しいようだ。
 また、我が国の経済成長の源泉も、この社会主義的な政策によるものが大きかった。
 しかし、全てを自由にすべきという危険なイデオロギーを持った、“大きな政府”と“福祉国家”が大嫌いなフリードマンのロジックは、最初はチリのような国で実験し、その後、先進国に注入することに成功した。

 具体的には、レーガン、サッチャー、中曽根が、それぞれ、アメリカ、イギリス、日本にネオリベラリズム(新自由主義)を注入させたが、当時はまだ日本もイケイケドンドン調で、私も含めて国民もあまり気にしていなかったように感じられる。
 しかし、90年代の長引く不景気で日本人の人心が荒廃しだした時に、小泉純一郎と竹中平蔵により、見事に日本のネオリベラリズム(新自由主義)が強化されたが、過去を振り返ると、小泉純一郎と竹中平蔵は、かなり狡猾で計画的な確信犯だったということが良く分かる。
 私が印象的だったのは、竹中平蔵の次のセリフだ。

「経済格差を認めるか認めないか、現実の問題としてはもう我々に選択肢はないのだと思っています。みんなで平等に貧しくなるか、頑張れる人に引っ張ってもらって少しでも底上げを狙うのか、道は後者しかないのです」

 この、「選択肢はない」というセリフは、まんま、マーガレット・サッチャーのセリフと同じで、こうした市場原理主義者同士の言葉の使い回しを観察しても、竹中平蔵が自分の意見を語ったというよりかは、ミルトン・フリードマンの代弁者だったということがよく分かる。
 また、竹中平蔵も、フリードマンも、共に「頑張った者が報われる社会を目指そう」と唱えた訳だが、ようするにその考えは、自分達の成功の自慢話だったようにも感じられる。

 竹中平蔵は、和歌山市の小売り業者の次男から、勉強して慶応大学の教授になり、その後は大臣にまで出世し、日本で住民税を払いたくないからとアメリカに住んだりしていたので、そうした“努力”のかいもあって資産も形成できた訳だが、フリードマンもまた、新聞配達の少年から豪邸を建てる所まで出世したことで、2人共たいした成功者となった訳だが、自分達は成功したのだから、自分達の理論は正しいという稚拙な論理に対して、これは学問というよりかは、精神分裂病患者の抱く妄想にも似ている気がする。

★チリとアルゼンチンの違い
 先日紹介したナオミ・クラインの「ショックドクトリン」の動画を観ていると、「シカゴ・ボーイズ」という言葉が頻繁に登場する。このシカゴ・ボーイズとは、フリードマンのいたシカゴ大学でフリードマン流の経済学を学んだ若い経済学者達のことのようだ。
 そして、このシカゴ・ボーイズは、チリとアルゼンチンにて、クーデターによる軍事政権が出来た時を狙って、自分達の考えるネオリベラリズム(新自由主義)をこの2つの国に注入した。そして、その後はお決まりの政策、つまり、金融規制緩和、労働規制緩和、保護貿易撤廃や、その他もろもろを行った。

 しかし、隣り合わせの2つの国は、その後全く別々の道を歩んだ。

 まずはアルゼンチンを観察してみよう。アルゼンチンは紛争によりハイパーインフレが発生し10年にも及ぶ不景気が発生したが、この不景気の原因は自由化政策がまだまだ徹底されていないからだと考え、『カバロ・プラン』という、2度目の自由化政策を投入したが、これは何か、中曽根時代の自由化政策に対して、その後起きた10年以上の不景気の原因が、自由化政策の不徹底だとした小泉政権を支持した日本にも似ている。
 話を戻して、アルゼンチンは、2度目の自由化政策で、貿易の自由化や民営化や労働規制緩和の徹底(これも改正労働者派遣法というザル法を作った日本に似ている)などを行った。しかし、その後のアルゼンチンは、2001年末には経済破綻している。

 では、同じネオリベラリズム(新自由主義)が注入された国でも、正反対の道を歩んだチリを観察してみよう。チリはシカゴ・ボーイズが自由化政策を注入した後、自由主義の修正に着手し、1990年代に入ってからは、中道・左派政権に政権交代し、社会主義的政策である、労働法再強化、フラット税制撤廃、貧困問題対策を行い、持続的な経済成長と貧困率の改善を図った。

 ちなみにチリは、1970年にアジェンデ大統領をトップとする社会主義政権が誕生したが、この政権は世界初の民主的に誕生した社会主義政権だった。しかし、1973年にアメリカが、フリードマンの理論を実験すべく、悪名高いピノチェト将軍を支援してクーデターを起こし、ピノチェトをトップとする軍事独裁政権を作ってしまい、アジェンデ元大統領を自殺へと追い込んだ。つまりフリードマンは、自由主義を採用しているという理由で独裁者を支持した訳だが、これが為、左派の人はフリードマンを軽蔑している。

★日本の現状
 我が国にとっては、竹中平蔵がシカゴ・ボーイズだったということが、だんだんと皆さんにも理解されていると思うが、簡単に言えば我々は、長引く不景気から脱したいと心底思っていた日本国民に対して、自分達が現状を打開し、古い考えを持った政治家を一掃すると宣言しているかのように見えた小泉純一郎と竹中平蔵にまんまと騙された訳だ。

 ところで、バブル経済が開花していた時に私は20歳前後だったが、私は世の中が浮かれていた時代をリアルに観察した歴史の証人でもある。しかし、その後日本が長期の不景気に入り、私自身、学歴等もないので就職難になり、自殺者なども急増した。では、フツーに安定した大企業等で働く、不景気などピンとこないという、かなり“オメデタイ”人や、そもそもバブル時代を知らず、物心ついた時から現在の状況だったので、今が不景気というのもピンとこないという若者に向けて、現状を紹介しよう。


 ・最下層の20%の所得と最上層の20%の所得の合計額の差が、1984年は13倍が2002年には168倍。

 ・正規雇用は1996年に3800万人が2006年に3340万人に減少。

 ・非正規雇用は1996年に1043万人が2006年に1663万人に増加。

 ・フリーターの人数は1991年に182万人が2001年に417万人に増加。

 ・生活保護世帯数は1992年に58万人が2005年に104万人に増加。

 ・経済生活を理由にした自殺者は1992年に2062人から2005年に7756人と約4倍に増加。

 ・刑法犯は1992年に235万人が2004年に342万人に増加。


 「貧しい人が貧しいのは、本人の努力が足りないからだ」論を今だに抱く方には、冷静に客観的に判断して頂き、我が国に格差が生まれたのは、原因はフリードマンの理論を抱いた小泉純一郎と竹中平蔵の政策の結果だということを、しっかりと認識して頂きたい。
 つまり、格差が生まれる原因は、規制緩和、民営化、法人税の引き下げ、相続税や累進課税の引き下げ、福祉の切り捨て、地方分権の推進、小さな政府の推進、その他もろもろが原因であり、貧しい人の努力の問題ではない。全てはフリードマンの教えを盲信した人達、というか、フリードマンの理論を政策に取り入れると得をする人達、つまりは超国籍企業の利益の優先により発生した結果なのである。

★獅子身中の虫
 尊敬すべき有識者の意見を参考にすれば、ヒューマニズムを無視したフリードマンの理論は、評判が非常に悪い。しかし、評判の悪い経済理論を注入する為に、超国籍企業は、政治家と結託して惨事活用型資本主義を利用した。
 もちろんこうした企業は、ほとんどがアメリカ産の企業な訳だが、その為に、『年次改革要望書』というものを使って、アメリカは日本にネオリベラリズム(新自由主義)の注入を画策している訳である。
 しかし、もうひとつ別の問題としては、すでに我が国にも超国籍企業が存在することである。つまり、トヨタとキヤノンである。
 特に、元トヨタ社長の奥田碩(おくだひろし)が経団連の会長になり、その後、キヤノン会長の御手洗冨士夫(みたらいふじお)が経団連の会長に交代したあたりから、経団連が政治献金を使って政治に介入し、ネオリベラリズム(新自由主義)を我が国に注入する重要な役割を担うようになってきた。
 つまり、本来はアメリカの利益になるとのことで注入されたネオリベラリズム(新自由主義)を利用して、自分達も儲けようという獅子身中の虫(内部から破壊する者の意)が存在した訳である。

 しかし、最近では、トタヨに対して批判する本も多く出版され、以前紹介した共産党の質問では、キヤノンの御手洗会長の地元である大分の工場による派遣労働の実態が告発されたりと、正に労働者を搾取してでも利益を捻出したいという、凄まじい利益優先主義の横行も暴露し始めているが、それに呼応するかのように、私は路線変更宣言にて記述したように、このままでは、人類全体が『負け組』になってしまうことを危惧すると同時に、私自身に備わる本来のヒューマニズムに目覚めることで、私は持続可能な社会を提唱すべきだと考えるに至った。

 つまり、トヨタやキヤノンやその他の超国籍企業が、全ての貧しい人々を搾取し終わった後の世界を想像するよりかは、貧困にあえぐ人達の利益を守るという思想、そして、その闘争の根底にある倫理的なメッセージが持つ抗しがたい力に魅せられたのである。

 もちろん、もしあなたがバイクに乗ることさえ出来れば幸せ調な人物で、世の中の今後のことや政治になど無関心だと言うのであれば仕方がないが、ここまでの長文を読むことが出来るリテラシー(読解力)のある方ならば、トヨタやキヤノンのような、自分さえ良ければそれで良いという、旅の恥はかき捨て的な人生について、ほんの少し罪滅ぼしを施すべく、福祉国家や社会民主主義を目指す政治家をセレクトして頂きたいと思う。

 えっ? 何々? 自分は筋金入りの保守なので、南米みたいな左翼政権の樹立なんて絶対にイヤだって? なるほど。もちろん、そう考えるのはあなたの自由だし、人間は、例え地球の裏側で何億人もの人が餓えて死のうが、自分の指を切り落とされることの方が数倍も苦痛だというあなたの気持ちもよく理解できるよ。しかし、このまま人類全部が『負け組』になるのを座視すると共に、自分勝手に生きる、あるいは、保守とかリベラルとか、右派とか左派とか、そんな違いを意識するよりも、未来の使者たる子供達のことを考えて、みんなで力を合わせるべきじゃないのかい?

 えっ? 何々? せっかく競争社会を勝ち抜いて金持ちになって裕福になりたいと思ってたのに、今更貧乏人に恵んでやるなんてイヤだし、人類の滅亡も自分の人生よりも短い期間には起こりそうもないし、子供のことなどどうでもいいので、このまま貧乏な人は放って先行逃げ切りしたいって? なるほど。しかし、“神田うの”の耳に念仏なのは承知で言わせてもらえれば、競争化社会から相互扶助社会に住む場を変えることは、禁欲的な自己否定などではなく、飾り気のない優雅さといった調子で、意外と心地いいぞ。




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