Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


深まるミゾ 2007年8月21日 16:45

 サーキットに興味のない若者に、どうやってサーキットに興味を向けさせるのか? まるで自己撞着だと失笑されそうなテーマである。
 事実、これまでロードレース関係者は、1990年代以降、多くの失笑を買ってきた。漂白された、骨抜きの、おとといきやがれ方式のMFJなどは、良かれと思ってやったことが、全て裏目に出て、現存するサーキットの住人達からは、失笑を通り越して反感を買ったりもしている。愚かだ。

 サーキットにおける価値観とは、基本的にはウデ自慢である。このウデ自慢には2種類があり、マシンのポテンシャルアップと、ライダーの運転技術である。
 しかし、いずれにせよ、現在の若者にとっては、オートバイの構造や内燃機関の仕組み等には関心がなく、バイクは自分のファッションセンスを表現するものであって、速く走ることは第2義というよりかは、ハッキリ言って論外である。

 現代の若者は、自分の持っているセンスをバイクという形で表現することに対して意欲を持っているのであり、サーキットの住人達のように、速く走る為のセッティングの出来ばえ、コース上でのウデ自慢をしたいが為にバイクにまたがっている訳ではない。
 従って、サーキットの住人達が、ウデ自慢で相手を屈服させようとしても、若者達はウデ自慢で生きていこうとは考えていないことから、はなはだ迷惑な話なのである。つまり、若者達はサーキットの住人達のウデ自慢に対して興味がないだけでなく、そもそも自分達が出来そうにもないことには耳を貸すことはない。
 今の若者達は、自分の視点でしか世の中を見ないし、自分の持っている世界観以外には関心を持たないし、役割分担したりもしない。しかし、絶望的なことに、サーキット人口の減少に歯止めをかけるには、彼らの関心事について研究しなければならず、ヨソ者や新参者にパドックを貸さないといった、低レベルで醜い問題よりも、事態は深刻であることに、一体何人の人達が気付いているのだろうか?

 ところで、私にとって、国内2輪専門誌の中で、安心して眺めていられるのは、『ストリートバイカーズ』誌1誌だけである。その他は全滅である。
 『ストリートバイカーズ』誌は、他の国内2輪専門誌をライバル視していない。彼らがライバル視しているのは、『smart』『Boon』『COOL TRANS』などのファッション誌である。
 そもそも、この雑誌の創刊の志しが、落ち行く2輪業界の未来を危惧して、バイクをウデ自慢の道具から、ファッションアイテムに転換させようというものであった。
 私自身、『ストリートバイカーズ』の巣窟である、渋谷・原宿が地元なので、彼らの生態をいつも観察しているが、彼らの視点に立った場合、フルフェイスのヘルメットを被り、ブーツインで原色ベースのツナギを着て、痛車チックなルックスのバイクにまたがってウデ自慢している人達は、ほとんどピエロである。
 彼らにとって、サーキットの住人達のウデ自慢とは、言ってみれば女優の涙のようだ。つまり、テクニックだということは分かるが、真実かどうかは疑わしい。

 しかし、今さら色々と思考を巡らせた所で、サーキットの住人達のファッションセンスが良くなるとも思えないし、渋谷や原宿の若者が、田舎のサーキットに出向くリアリティーもない。つまり両者は住む世界が違うのである。
 幸いなことに、私は両者の中間に位置することで、シニシズム(物事を冷笑的に見る態度:虚無主義)を抱いたサーキットの住人達と、自信があり、大胆で、勇敢で、クールなストリートの人達の違いを傍観することが出来た。
 前者は、因習的で、競争主義を抱いており、レギュレーションで意味を押し付けられ、コントロールタワーに支配されている。
 後者は、破壊的で、革新的で、草の根指向であり、都会のサブカルチャーに所有されている。

 もう1度若者達に、サーキットに興味があるか聞いてみよう。もし、その答えが「ノー」だったとしても、あなたは彼らを責めることが出来るだろうか?
 もしあなたが、サーキットで自慢のライテクを駆使して若者達を屈服させたいのであれば、あなたは自分が裸であることに、早急に気付くべきである。そして若者達は、あなたのことなど意にも介さずに、独裁国家の優秀な兵隊よりかは、自由の国のヒッピーを目指すことだろう。シーアーソイホーガイナー系ビーチクロイクーなチャンネー(スタイルの良い遊んでいる女性)をタンデムシートに乗せて。




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