Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


チャンピオンライダー考現学 2007年3月2日 22:14

 もし私の目の前に、はたちやそこらの若造ライダーが現れ、「速くなるにはどうすればよいか?」などと言ったたわけたことをほざいたならば、私は利き腕でそいつの鼻をつまみ、残されたもう片方の手で、黙ってサーキットのほうを指差すことだろう。
 つまりは、私は若造ライダーに対してなど、ほとんど何の関心もない訳だが、ロードレースに関わる人達が、あまりにも事実とかけ離れた話しかしないので、サーキットの暗部を直視する勇気を若造ライダーに与えるべく、今回特別に、インターネットと親和性の高い若造ライダーに向け、サーキットにおける真実を語るとしよう。
 もし君が、これからサーキットを走ってチャンピオンライダーを目指したいと言うのであれば、君こそ以下をよく読むべきである。また、もしあなたが、80年代の偶然から生まれた空前のロードレースブーム世代の残党ならば、是非、以下を読んで頂きたい。目からウロコが落ちるハズだ。

★サーキットの真実
 チャンピオンライダーになる為には、君はまず何が必要だと思うかね? 人によっては、「自分はチャンピオンになれるという自信」と言う者もいるかもしれない。あるいは、「自信をつける為には、まずはテクニックを習得する必要がある」と言う者もいるかもしれない。
 しかし、これではニワトリとタマゴの話と一緒で、自信があるからテクニックが身についたのか? テクニックを身に付けたから自信がついたのか? まるで堂々めぐりだ。あなたが想像するように、私はそんな話はしない。
 サーキットで結果を出す、その為のトップ・プライオリティー(最優先事項)は、自信でもテクニックの習得でもなく、まずは“親にたかること”である。もう1度言うから、耳の穴をかっぽじって、いや失礼、ネットなので、目ヤニでも掃除して、よく読んで頂きたい。まず君がやるべきことは、“親にたかること”である。
 仮に君がサーキットを目指していて、もし行きつけのバイク屋さんか何かがあり、そこで兄貴分の店長さんあたりに相談したのならば、まずはアルバイトでもしてレース資金を稼げとでも助言されることだろう。なつかしい根性論を前提としたフツーのアドバイスだ。
 しかし、誰も大声では語らないが、サーキットでモノを言うのは、まず間違いなく、親の財力である。目標の設定とか、目標に向けての努力とか、ポジティブシンキングとか、そんなものは大して重要ではない。むしろ、トップ・プライオリティーを忘却させる為の足かせにすらなりかねない。
 「おいオヤジ、500万円位貸してくれないか?」この言葉を親にぶつけること、これこそが私が言いたいことに他ならず、君のライディングに対するセンス、根性、思い入れなどは、実はどうでも良い。繰り返すが、重要なのは、親の財力なのである。

★自分の力では無理
 例えば、である。安倍総理は、自分の力で総理大臣になったのだろうか? 答えはノーだ。安倍総理は、他人の力で総理大臣になったのである。もっと言えば、安倍総理は、親の力で総理大臣になったのである。
 では、アメリカを見てみよう。ブッシュ大統領は、自分の力で大統領になったのだろうか? 答えはノーだ。ブッシュ大統領は、他人の力で大統領になったのである。もっと言えば、ブッシュ大統領は、親の力で大統領になったのである。
 「政治家とライダーを一緒にするのはナンセンスだ」と、あなたは言うかもしれない。なるほど。
 では、昨年のmotoGPのチャンピオンである、ニッキー・ヘイデン選手について考えてみよう。ニッキー・ヘイデン選手は、自分の力でチャンピオンになったのだろうか? 答えはノーだ。ニッキー・ヘイデン選手は、他人の力でチャンピオンになったのである。もっと言えば、ニッキー・ヘイデン選手は、親の力でチャンピオンになったのである。
 では、2年前のmotoGPのチャンピオンである、バレンティーノ・ロッシ選手について考えてみよう。バレンティーノ・ロッシ選手は、自分の力でチャンピオンになったのだろうか? 答えはノーだ。バレンティーノ・ロッシ選手は、他人の力でチャンピオンになったのである。もっと言えば、バレンティーノ・ロッシ選手は、親の力でチャンピオンになったのである。
 これまで生み出された多くのチャンピオンライダーが、親の財力をキッカケとしてチャンピオンになっていることについて、多くのロードレース関係者は、あまり大声では語らない。出来ればライダーの努力だけでチャンピオンになったとしたほうが美談になりやすいからだ。
 しかし、若い頃にサーキットに通って私が知った真実は、親の財力をあてにしているライダー程、結果を残しているという事実だ。ちなみに、80年代の空前のロードレースブームの頃には、土建屋の息子みたいなライダーが圧倒的な力を持っていた。しかし、バブル崩壊後は、小泉のヤロー(土建屋の口調風)のおかげで、土建屋の元気が無くなってしまったので、今なら、IT企業のCEO(現代風な呼び方だ)の息子あたりがトレンドだろう。まー、何でもいいのだが、親が金持ちに越したことはない。
 そして、君にとって重要なのは、なつかしい根性論に背を向け、臆面も無く、“親にたかること”なのである。

★友達という足かせ
 しかし、ひょっとしたら、君は私の助言に対して、うしろめたい気分になるかもしれない。そう、君をうしろめたい気分にさせる人物も沢山いる。例えば、同い年の友人や彼女などだ。君の友人は言うかもしれない。「親の金で走るなんてカッコ悪い」と。正義感に燃え、理想をかかげる若者にありがちな思考だ。が、そんな友達はすぐに縁を切ったほうが良い。君がうすうす感じているように、世の中同様、サーキットにおいてもマネー・トークス(とにかくこの世は金次第)であり、大人の社会は汚いのだ。また、友人同様、君の彼女も言うかもしれない。「親の金で走るなんてカッコ悪い」と。そんな彼女には、「親にたかるオレを非難する前に、オレにたかるな」と言おう。閉口するハズだ。
 若造ではなく、いっぱしの大人であるあなたは言うかもしれない。「オマエの話は美しくない」と。なるほど。しかし、お言葉を返すようだが、私は美しい話をしたい訳ではない。美しい話は政治家先生に任せたいと思う。もしあなたが、美しい話を欲しているのならば、政治家先生のホームページを開いて頂きたいと思う。が、しかし、あなたが間違っている訳でもなく、確かに私の話は美しくない。美しくないどころか、耳障りな感じがするし、世俗的で打算的で怠惰的である。
 そう、つまり私の助言は、美しくなく、耳障りな感じがして、世俗的で、打算的で、怠惰的で、そして、申し訳ないが、とびきり効果的だ。

★付き合うなら兄弟
 友人や、あるいは自分の金で頑張ろうとするライダーと付き合うことは、デメリットが多い。親の金を使うことに対して、うしろめたさが増幅するからだ。かわりに、親の金で走ることに対して、うしろめたさを減少させる、あるいは意にも介さないようになるには、同じく親の金をあてにする兄弟と仲良くするべきだ。
 ロードレースの世界を見渡すと、兄弟もロードレースをやっているというライダーが活躍するというパターンが多い。ニッキー・ヘイデン選手などは、家族全員がバイクレースに関わっている。このように、兄弟で親の金を使っていれば、親のスネをかじっていることに対する罪悪感などなくなり、他の自分の金で苦労しているライダーのことなど、まるで代々木公園のストリートパフォーマーのように、おめでたい夢追い人にしか感じられなくなるだろう。いいぞ、その調子だ。
 更に言えば、すでに金の面でハンデを追っている者達を尻目に、親の金を平気で使うことで、兄弟同士で純粋に走りに対して切磋琢磨することも出来る。
 ちなみに、こうした例は、ロードレースに限らず、フィギュアスケートの浅田姉妹やゴルフの宮里兄妹やボクシングの亀田3兄弟に至るまで、あらゆるスポーツの世界で見られる現象にも関わらず、美談好きは、相変わらず努力や才能の話しかしない。
 繰り返すが、重要なのは、親の財力であり、出来れば兄弟揃って“親にたかること”なのである。
 しかし、多くの尊敬すべき識者達は、努力や才能、言うことがなくなればテクニックについて語るばかりだが、テクニックなど、同じところをグルグル回っていれば、その内身につくことだろう。しかし、もっと重要なのは、そもそもグルグル回る為に必要な財力であり、グルグル回っても親にたかる能力は鍛えられない。
 しかし、テクニックについて考えるよりも前に、親の目がグルグル回るほど、君は“親にたかる”能力をまず磨くべきである。

★バイクに対する愛着という足かせ
 別の論理も展開してみよう。君は、君がアルバイトをして稼いだ金で購入したオートバイに対しては、恐らく大きな愛情を注ぐことだろう。しかし、残念なことに、レースにおいては、毎年オートバイを買い換えることが前提であり、場合によってはシーズン中に買い換えるハメになることもある。また、成長してワークスに拾われた場合は、当然のことながらマシンはタダでガンガン供給される。マシンに対する愛着など考えているヒマはない。次から次へとニューモデルや新しいパーツの類をテストするハメになる。こうした習慣に慣れる為にも、持っているものを長期に渡り使い込む習慣を知らず知らず身に付けてしまうよりかは、親の財力で使い捨て習慣を学んだほうが良い。オートバイやパーツの類は、一生持ち続ける結婚指輪ではなく、それらを親の財力で入手すれば、恐らくポケットの中のビスケット感覚になるだろう。いいぞ、その調子だ。また、もし君の親が金持ちならば、チャンピオンになるまでは親からバイクを買い与えられるのが理想だが、ケニー・ロバーツ(ジュニア)などは、チャンピオンになった後も親からマシンを与えられているので、最高なパターンである。さすが親子でチャンピオンになる家系は違う。
 という訳で、もし誰かが、幼少期のニッキー・ヘイデン選手やバレンティーノ・ロッシ選手にオートバイを買い与える親達の行動を阻止していたら、恐らく彼らはチャンピオンにはなっていなかっただろう。繰り返すが、重要なのは、君の才能ではなく、親の財力なのである。

★エピローグ
 もし君が、親の財力をあてにすることなく、自分だけの力でロードレースに参加しようと、アルバイトでも始めたのならば、チャンピオンへの道はほとんど閉ざされたと言っていい。
 えっ? 何々? なけなしの小遣いで速く走って、ショップワークスに拾われ、その後ワークスライダーになったライダーもいるって? なるほど。しかし、そうしたライダーは消耗品である。速くなくなれば、メーカーはポイッと捨ててしまう。えっ? 何々? 例を出せって? あまりにも膨大な人数がいるし、そこまで私は鬼ではないので、御遠慮させて頂くよ。(笑)
 これに対して、親の財力があったライダーは、少々スランプ期間があっても、何とかその期間をしのいで、その後チャンピオンになるケースが多い。理由。親も乗りかけた船なので、息子をチャンピオンにして投資額を回収したいからだろう。倍にして。

 このように、我が子に投資する親の執念を前にして、君がアルバイトで流した汗などは、大した戦力にならない。ならば君も、まず行なうべきことは、とにかく“親にたかること”である。
 ロードレース関係者が気分を害すことを恐れずに言えば、サーキットで成功するか否かは、レースに対するセンスや才能、ましては努力などではなく、“親にたかる”能力の有無であり、親にたかっても意にも介さないふてぶてしさが最も重要である。小泉のヤローが内閣に対しても言っただろう。つまりは鈍感力だ。分かったら、今すぐに親にたかりなさい。
 えっ? 何々? 自分の親はリストラされて失業中だって? 君はサーキットを走っている場合ではない。来世に期待する。我が国の総理大臣も言っているだろう、再チャレンジだ。
 えっ? 何々? 自分は親にたかるような年齢ではなく、自分自身で稼ぐ収入も充分あるって? あなたは本業に集中して、子供に英才教育をほどこすべきだ。
 えっ? 何々? 子供は作らないって? では、あなたは、休日にピヨピヨ趣味でサーキット走行を楽しんだほうが良い。手前味噌だが、つまり私のように。




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