Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


行き来 2006年8月27日 14:31

 皆さん御存知のように、06のZX-10Rは大コケした。事前に口がうまい販売員を準備できなかったカワの販売店は泣きが入っている。
 以前紹介したように、04のZX-10RはCBR1000RRを僅差でやぶり、リッタースーパースポーツの荒川静香のごとく、大穴とばかり大成功したが、その後もCBR1000RRは売れ続け、出遅れた感のあるYZF-R1も少しずつ売上を伸ばしたが、惑星の並びが再現することがないように、ZX-10Rの成功は繰り返さず、現在では荒川静香の金メダルのごとく、04ZX-10Rの成功は忘れ去られている。
 もちろん、ワザワザ私が書くまでもなく、皆さんにも理由はよく分かっていることだろう。そう、06のZX-10Rは、150万円近くするスーパースポーツ車だというのに、なんと、スクーターのサイレンサーを取り付けてしまったのである。(2本も)
 これにより06ZX-10Rは、購入時にすぐにアクラ等をブチ込む予定の、“大人買い”が出来る金持ち以外の人からは、全く購入候補にされない駄作となり、カワサキは自分の足を撃った。

 え〜と、誰に聞いたんだっけな? 誰に聞いたかも思い出せない裏覚え情報なので間違っているかもしれないが、06のZX-10Rは、マツダあたりから雇った、4輪のデザイナーにデザインさせたのが敗因だという噂を聞いたことがある。本当だろうか?
 まーどうでもいいのだが、誰がデザインしようと、カワサキの経営者は06ZX-10Rのデザイナーに対し、アメリカでは流行語にもなったドナルド・トランプ(不動産王)の決めゼリフ、「YOUR FIRED!」(あなたの肩を叩きたいです)という言葉を伝えたあとにお払い箱にし、カワサキというブランドバリューに対して少しは知っている、否、熟知していて、少なくともアスピレーショナル・アプローチ(好ましい憧れるべきイメージをブランドに付加する方法)という言葉が理解できるデザイナーを起用するべきだろう。メーカーから金をもらう立場の国内2輪専門誌は言わずもがなだが、いかついイメージのカワ党の人達への気遣いからか、あえてカワには触れない人達にかわり、言いづらいことは私が伝えてあげよう。
 と言いつつ、私自身もカワ党の人達とトラブルは起こしたくないので(笑)、逆説的にカワのブランドバリューについて語ろう。
 そう、カワのブランドバリューとは、無難に言えば“武骨な男らしさ”なのだが、逆説的には、抜け目なく、スマート(ズル賢く)で、安定志向であり、長いものに巻かれがちな、そう、ホンダ党とは対極に位置するのが、カワ党のポジショニングなので、カワがカワ党からのロイヤルティー(忠誠心)を勝ち取る為には、ホンダとは正反対のアプローチをとったほうがいいだろう。

 という具合に、ストリートライダーにバイクを売りつけるには、バイク乗りの“こだわり”心をくすぐる必要があるが、なぜならば、ライダーの“こだわり”心を醸成すれば、簡単に顧客のロイヤルティーを育むことができるからである。
 しかし、である。世の中は広いので、私自身も(カワサキのように)自分の足を撃ち、話の腰を折るべく、“こだわり”には全く関心がなく、全ての興味と関心が“速さ”に集中している人種についても語ろう。これは、非常に希少な人種だが、皆さん御存知のように、それは、その人種とは、メジャーなレースに参戦する選手権族である。
 彼らは、メーカーや個別のオートバイにこだわりはなく、“勝つ”可能性が最も高いオートバイをセレクトする。同時に、アフターパーツの類も、“勝つ”可能性が最も高いパーツをセレクトするので、必然的に出来上がったマシンも、エキセントリックさはなく、没個性的である。つまり彼らは、「ウィニング・イズ・エブリシング」(勝つことが全て)という指向に極端に偏っている訳だが、彼らは“見かけ”ではなく、“結果”で自分を表現したいのであり、“記憶”よりも“記録”に残るライダーを目指して走っている。(記録は『ライディングスポーツ』誌の白黒ページに虫メガネが必要な小さな文字で掲載され、誤字脱字があったりもする)

 さて、極端から極端に話を飛行させてみたが、世の中は広く不完全なので、この対極の2つのグループ以外にも、別のグループが世の中には存在する。それが草レーサーである。
 草レーサーは、サーキットにおける無政府主義者であり、草レーサーは、“こだわり”と“速さ”の価値観の、中間のどこかに位置している。しかも彼らの行動に特徴的なのは、時には“こだわり”を優先したり、時には“速さ”を優先したりと、価値観を“行き来”することであり、彼らはこうした“行き来”に悩んでいるどころか、こうした“行き来”を楽しんでいるフシもある。これが、マユが吊りあがった選手権族に対し、草レーサーに笑顔が多い理由にもなっている。
 人間は、あまりにも1つの指向に凝り固まると、シニシズム(物事を冷笑的に見る態度:虚無主義)を抱きやすくなる。このことは、ストリートの人達が、メーカーにこだわり、ライバルメーカーをなじったり、あるいは選手権を戦うライダーも、オートバイに乗る楽しさよりも、ライバルを叩き潰すことに興味が集中する内に、次第に笑顔が失せたりすることで理解することができる。
 そういった意味でも、私はファジーな草レーサーが好きである。ヘンテコな改造がしてあったり、ヘンテコなフォームで走るライダーが心底好きである。
 また、私はこのインターネットの時代において、ニヤリズムを理解できない人間が好きになれない。そうした意味で、テキスト系ライダー、特に“こだわり”と“速さ”の間を行き来する笑顔が絶えないライダーが大好きである。

 オーバーに言って締めくくれば、この“行き来”こそ、飽きずにオートバイと長く付き合うコツでもあるのだが、世の中には両極の放言が多く、“行き来”に価値を見出した意見に出会うことは滅多にないが、少なくともこの“行き来”は、草レースの世界では“遊び心”という名の市民権を得ている。




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