Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


加速する愚行 2005年12月8日 14:55

 ウソかホントか分からないが、以前こんな話を聞いたことがある。ある時、スズキの社員がホンダの本社を訪問した時のことである。そのスズキの社員は、こうつぶやいたという。
 「やっぱ、本社は青山辺りにないとだめだよな〜」
 これは、スズキが逆立ちをしてもホンダには勝てないと言った、スズキの社員の刹那的な気分を言い当てた、一種の業界のジョークとして語られていた。
 しかし、私は現在は全く逆の考えを持っている。仮にもしスズキが青山に本社を建てたら、スズキの株主は持ち株を処分した方が良いかもしれない。なんなら、持ち株を私に貸してもらえれば、私がカラ売りして差し上げよう。
 素人の方達は、本社が立派だと、会社も立派だと錯覚してしまう。素人でないスズキの社員も錯覚することがある。
 しかし、投資家の目はシビアだ。本社が立派だということは、株主が得るべき利益の一部が、確実にその建物の建設に使われたということであり、簡単に言えば、株主軽視である。
 立派なオフィス、大盤振る舞いの役員報酬、中途半端な業績は、同時にやってくる。
 しかしホンダは、これに加えて、新しいバカ社長を担ぎ上げた。今度のバカ社長は、まるで自分がバイクが好きだと言わんばかりに、バイクにまたがってメディアに登場することが多い。これは、本人にしてみれば、バイクに乗れないヤマハの社長に対するあてつけかもしれないが、自動車業界から見れば、ストレートにバカ丸出しである。ホンダの敵は、ヤマハではなく、トヨタなのである。
 今後、国内の自動車メーカーのブランドの確立においては、トヨタとホンダの明暗が分かれるだろう。
 トヨタは、高級車を売る販売チャンネルとして、全く新しくレクサスを立ち上げた。これに対してホンダは、来春より、国内販売網を統合して、全車種を売る『併売型』に移行すると言う。理由。販売好調な軽自動車を底上げしたいからだそうである。トヨタとはまるで正反対な戦略である。┓(´_`)┏
 あなたに質問してみよう。販売車種が多いディーラーと、販売車種が少ないディーラーでは、どちらが販売台数が多いだろうか? 多くの人は、迷わず販売車種が多いディーラーだと答える。そしてまた、ホンダの経営陣もそう思った。理由。フルライン信仰である。
 ホンダは軽自動車を売りたいが為に、レジェンドと軽自動車を一緒に売るそうである。両方売れれば、笑いが止まらないだろう。
 では、軽自動車のシェアのトップはどこだろうか? スズキである。顧客はスズキには(実際には売っていても)軽自動車以外は売っていないと考えている。理由。スズキは軽自動車にフォーカスを絞っているからである。スズキのブランドイメージは、軽自動車である。また、シェア争いを熾烈に繰り広げる2位のダイハツも、軽自動車にフォーカスを絞っている。ダイハツのブランドイメージは、スズキよりも明確に軽自動車、である。

 話を高級車に移そう。
 国内メーカーにおいて、ベンツやBMWに対抗出来るディーラーを、やっと作ったのが、レクサスである。私に言わせれば、スタートが遅すぎるという感じだったが、やらないよりかはやった方が素晴らしいと思う。また、土地が最も安く、景気が回復する時期に始めたことは、私の心配をよそに、レクサスにとって追い風になるかもしれない。レクサスは今後、日本製の高級車のシェアを伸ばしていくことだろう。ロレックスをはめた人間は、カローラや軽自動車を視界に入れて買い物などしたくないのだ。

 ディーラーにおいては、ラインを絞ると、他にどんな効果が生まれるのだろうか? ラインを絞ると、商品の特徴がハッキリして、それを売る者や、あるいはサービスする者も、商品に熱中し始める。商品に対して、こだわりやが生まれる。ラインを拡大すると、信念があいまいになる。
 ボルボのディーラーに行くと、「ご家族は何人いらっしゃいますか?」と聞かれる。これは、ここにはあなたの家族を守る安全性の高いクルマがあるという意味である。
 フルラインの店に入ると、「どんなおクルマがお望みです?」と聞かれる。これは、ここにはこれといったクルマはないという意味である。
 業界の常識では、年間200万台以下の生産台数のメーカーは、小規模過ぎて競争力はないとされている。しかしボルボは、年間40万台のメーカーだが、最も収益性が高いメーカーである。
 しかし、私を驚かせたのは、ボルボは乗用車部門をフォードに売却してしまったことである。当時の社長いわく、これは自暴自棄の売却ではなく、より収益性の高いトラック部門に集中する為だったという。エクセレントである。ホンダはボルボに習って、2輪部門を売却すべきである。

 しかし、大企業の幹部は、誰が何と言おうとフルライン信仰を捨てることが出来ず、ホンダとて例外ではない。企業は、あらゆるニッチに鼻を突っ込み、あらゆる価格帯で勝負しようとする。
 企業は、ラインの間にあるスキマを埋めたいという誘惑になかなか勝つことができない。
 ダイムラーは、大型高級車路線を守るという選択をせず、中小型車にラインを拡大し、更にはもっと小さいスマートに手を出した。
 スマートは予想通り大コケし、巨額の赤字を生み出すことには貢献した。
 ダイムラーがバカげたラインの拡大を行なっている間、BMWは、「ドライビングマシーン」という信念にこだわり続け、成功を収めた。

 たったこれだけの例を考察しても、フルラインが株主の失望を招くことが分かるだろう。(ホンダが2足歩行で歩くロボットを発表した時、トヨタの株主はホクソ笑んだことだろう)
 ドゥカティとハーレー・ダビッドソンのディーラーは、成功していると思う。販売している者にも、サービスしている者にも、信念があると思う。理由。ラインが狭いからである。ドゥカティやハーレー・ダビッドソンの顧客は、この2つのブランドの持つプレミアムに、高い追加料金を支払うことをいとわない。
 他方、スーパースポーツと原チャリを並べて売る国内メーカーの販売店には、信念はない。結果、価格でしか勝負できなくなる。しかも、原チャリは4メーカー、それ以外は3メーカーがフルラインで対抗しあうので、価格競争は益々激しくなっている。デフレスパイラルである。
 これを断ち切るのは、リーダーシップを持った、否。強いリーダーシップを持ったトップである。しかし、ホンダの新社長は、まるで逆を行なっている。今後の業績の悪化を案じさせるように…。

 良いニュースもある。
 ダイムラーがラインの拡大を始めると、社員はベトナム戦争時の兵隊のように、トップから返事が戻ってくるのに、何週間も待つハメになった。その内、増える一方のデスクワークに忙殺されるようになり、うんざりした彼らは、そこから逃げ出すことを考え始めた。結果、ダイムラーからは、優秀なマネージャーが多数流出した。
 ホンダ以外のメーカーは、ヘッドハンディングのチャンスである。ホンダの新しい社長に失望し、売りたくないクルマを売るハメになった人達を、このチャンスに引き抜くのである。もちろん、優秀な人間を、である。ホンダ以外のメーカーにとって幸いなことに、優秀な人間ほど、見切りは早い。




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