Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


失敗すら楽しむという逆説 2005年8月17日 19:59

 こんばんは、多くの2輪業界関係者の、「オートバイを安全に楽しむ」という提唱を根本的に否定するかのように、昨年は3回サーキットを走って2回転倒し、今年に入ってからは、5回サーキットを走って3回転倒しているという、2輪業界の発展を忘却した悪性のドン・キホーテ、アーブ山口です。

 正直に告白しよう。私は転倒が好きだ。あの路面を滑っていく時の、コミカルな自分の姿を他人に拝ませている瞬間に対して、ゾクゾクする気持ちを抑えることができない。つまり私は、内罰的反応型(マゾヒスト)な人間なのだろう。エルメス、ピンヒールで踏んでくれないかな〜。(核自爆)

 もちろん、世の中の常識においては、転倒は“悪”ということになっている。しかし、私は転倒の快感を広めようとしている極悪人であり、私は以前、『前のりティリポート5』にて、根本健氏は神様ではないと訴えたことがあったが、もし悪魔に息子がいるとすれば、それは間違いなくこの私である。

 とまー、読者をダークサイドに誘うのはこれくらいにして、世の中の常識に従ってみよう。
 バイク乗りにとって転倒はストレートに悪であり、特に、もっとも転倒を嫌悪しているイベントは毎年三重県で開催されている。『鈴鹿8時間耐久レース』である。
 ちなみに、私は転倒が大好きな人間であることは前述の通りなので、この8耐に対して興味がない。正確には全く興味がない。
 しかし先日、書店のバイク雑誌が売っているコーナーにて、恐らく『ライディングスポーツ』誌あたりが出していると思われる、8耐関連書が視界に入ったので、私は、多分今年も8耐は開催されたのだろうとウスウス察することができた。皆さんはリザルトを御存知だろうか?
 もちろん私はリザルトは知らないので、自分とキタリンの日記を読むことくらいにしか利用していないインターネットをたまには活用すべく、インターネットでリザルトを調べてみよう。

 (この間、インターネットで8耐のリザルトを調査中…)

 え〜と、とりあえずリザルトは分った。
 つまりは、ホンダワークスが勝ったようだ。そして更に、1位から6位までは全車ホンダ車で、なのに、誰も同一周回でゴールはしていないようだった。
 こんなレースが面白いのだろうか?
 では、基本に帰ってみよう。ロードレースの魅力とは何であろうか? それは、“筋書きのないドラマ”である。もう1度言おう。ロードレースの魅力とは何であろうか? それは、“筋書きのないドラマ”である。
 しかし、8耐は、転倒を好むという私以上に、世の中の常識に反している。つまり、“筋書きのあるドラマ”になっているのであ。もちろん、全責任はホンダにあるだろう。

 さて、ここまで書くと、私のことを、そんじょそこらのアンチホンダ党の人間だと錯覚される向きもいらっしゃるかもなので、私らしく、別の視点からホンダを批判してみよう。
 今年の8耐でホンダ車が上位を独占することで、つまりホンダがロードレースを筋書きのあるドラマに仕立て上げることで、ホンダのパブリシティー効果は高まったのだろうか? もっと下品に言えば、ホンダ車のセールスにプラスになったのだろうか? 何台かは売れただろう。しかし、最初っからCBR1000RRや、ましてはトゥデイを買いにホンダの販売店にやってきた客は、8耐のリザルトなどオートバイの購入において参考にするのだろうか? する客もいるだろう。しかし、その為に費やした費用は、採算に合っているのだろうか?
 私には、ホンダの株主が得るべき利益の一部が、確実に無駄な投資に費やされたと思えてならない。

 さてさて、冒頭では、まるで中学生の不良のように、私はワザと悪ぶって見せたが、実の所、転倒すら楽しみに変えてしまうという人間の習性は、人間の持つ、“失敗すら楽しむという逆説”に例えてもいいだろう。
 そこで私からホンダに提案がある。ホンダは、あえて失敗を楽しむかのように、ワークス参戦をやめてみてはいかがだろうか?

 想像してみよう。
 ホンダ及び、全てのワークスが8耐から撤退したとしよう。すると、レースはプライベーターの手に帰ることとなる。ヨシムラ、モリワキの時代である。もちろん他の無名なプライベーターが活躍する可能性もある。つまり、レースはアクビが出るほど退屈な“筋書きのあるドラマ”から、本来のワクワクドキドキの“筋書きのないドラマ”に変貌する。
 すると、何か感動するストーリーが生まれるかもしれない。ライダーも観客も、予想できないストーリーに対して、様々な夢を感じることができるかもしれない。
 では、メーカーは何ができるのだろうか? それは、様々なプライベーターがベースにするに当たって、素性の良いオートバイの開発である。
 メーカーは、プライベーターの方達が勝手にレーサーを作ることを傍観し、ただただオートバイを“普通に”供給するのである。
 すると、プライベーターの方達は、“勝手に”レースをドラマチックに仕立て上げ、“勝手に”スター選手も生まれることとなる。するとそこに感動が生まれ、一般のライダー達は、感動を提供してくれた“ベースマシン”が欲しくなり、実際に購入する。
 どうだろうか? メーカーは、株主から集めた大切な資金に対して、ほとんど何も手をつけずにオートバイを売ることができるのである。このほうが費用対効果は高いのではないだろうか? 孫子の兵法の「闘わずして勝つ」。である。しかも、上記の私のなかば“オメデタイ”想像がその通りにならなくても、そもそも出費はないのである。このほうがはるかに合理的じゃーないかい?

 かつての我が国の首相の吉田茂は、戦後の貧しい時期に軍隊など作ったら、更に貧しくなると考え、経済復興を優先し、自国の防衛はアメリカに委ねることが、最も安全で、更にアメリカとも仲良くやっていけると考えた。
 多くの識者は吉田茂を批判しているし、私自身政治の世界にはうといのでよく分からないが、敗戦時には軍備するなと言ったクセに、朝鮮戦争の時にコロッと態度を変え、我が国に軍備しろと迫ったアメリカに対して、もし吉田茂が屈していれば、今の経済発展はなかったと言えるが、それに対して、吉田茂は日本を弱体化させたという批判もある。しかし、私は個人的には、吉田茂のとった、軽武装・重商主義を支持している。(そうでなければ、私はスピードという名の麻薬は吸引できなかっただろう)

 という訳で、鈴鹿8耐においても、メーカーはワークス参戦して優勝するという、まるで幻に向って弾を撃つかのような行為はやめて、レースを“筋書きのないドラマ”にしてみてはいかがだろうか? つまり私が“ホンダ党”としてホンダに助言したいのは、かつての吉田茂が言った、「戦争に負けて、外交で勝つ」という言葉のように、「レースで負けて、商売で勝つ」戦略であり、本当の強さは、ROE(株主資本利益率)で示して頂きたいと思う。つまり、投資家にとっては、8耐での勝利など、絵に描いたモチなのである。

 そして、タバコ広告に興味のない“いち”ロードレースファンとしては、ワークスが撤退したら、8耐を観ることとしよう。
 更に言えば、タバコのパッケージが疾走しているよりかは、ヨシムラカラーやモリワキカラーが疾走しているほうが、子供達に対しても健全性をアピールできると、悪魔の息子でさえ思う。




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