Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


嗚呼、プロアーム
2009年4月18日 22:42

 前回のエントリにて、ホンダの気紛れ設計について書いていたら、世紀の失敗作という呼び名も板に付いた、かの有名な“プロアーム”について思い出したので、大したネタも無くマーヒーだということも手伝って、今回は暇つぶしにプロアームについて語ってみよう。

★大コケしたプロアーム
 プロアームは、元々エルフの技術だったのは有名な話で、ホンダはエルフの特許を買って採用した訳だが、プロアームを採用した市販車だったRVF400のカタログを見ると、まるでプロアーム以外はスイングアームじゃないくらいの勢いでプロアームをべた褒めしているので、このカタログの文句に騙されてRVFなどを購入された方も多いだろう。

 しかし、プロアームは、ワークスとか、チャラチャラしたストリートライダーだけが使っていれば、そのデメリットも表面化しなかったのかもしれないが、プロアームが失敗作だと決定づけたのは、プライベートのサーキット野郎も買うハメになった、逆プロアームを採用したRS250の存在だろう。

 そう、GP250というカテゴリーは、とにかくひっきりなしにセッティング変更をしてベストを尽くすというクラスだが、この逆プロRS250は、たかだかファイナルの変更のたびに、このプロアームのデメリットが浮き彫りになった。

 つまり、通常、両持ちのスイングアームでは、横方向にスライドするチェーン引きでチェーンの張りを調整するが、プロアームでは、チェーンの張りをエキセントリックで調整する為に、たかだかファイナルの変更の度に、RS250はリヤの車高が変化し、更に相対的にキャスター角も変化し、ファイナルを変えたいだけなのに、これまで苦労してセッティングしたマシンのジオメトリーが、総崩れになってしまい、そのお陰でメカニックがノイローゼになる有り様だった。あ〜あ、ワークスだけが使ってれば、トップシークレットでバレなかったのに。(笑)

 それと、玄人の方達が語るプロアームのデメリットは、プロアームは、左右でしなり方が違ってしまうので、コーナーリングで左右に違和感があるというものもあったが、更に4サイクル車だと、センターアップがトレンドになる前は、プロアームの最大の利点である、“ホイール交換”がしやすいように、エキパイをアーム側に持っていく必要があったのだが、不幸にして、アーム側には必ずチェーンがあるので、両持ちスイングアームのマシンですら、ガルアームにしたりとか、バンク角を稼ぐ為にエキパイはマシンの中央に寄せたいという設計なのに、わざわざチェーンのある方にエキパイを取り回すハメになっているのも、バカっぽいルックスになっているRVFの特徴だった。

 そして、もっとバカっぽい出来事が、肝心の耐久レースでも、両持ちスイングアームの車両も十分に速いタイヤ交換が出来てしまったということで、これでプロアームの面目は丸潰れになった。

 嗚呼、悲しいかなプロアーム。残念だったね。

★素晴らしい999
 ホンダ以外でも、ドゥカティが916で片持ちを採用していたが、こちらはセンターアップなので、バカっぽいルックスではなかった。(笑)

 しかし、ドゥカティが916シリーズのルックスにおさらばバイバイし、全く新しいルックスの999を出してきた時には、私は思わず驚嘆した。「おおっ! なんと素晴らしいチェーン引きなんだろう!!!」と。

 そう、新しい999は、片持ちから両持ちに変更しただけでなく、2輪史上において歴史に残るであろう、素晴らしい発明を引っ下げて登場したのだ。それが、路面に対して水平に移動するチェーン引きだ。

革新的なチェーン引き構造を持ったドゥカティ999の画像

 どうだね、この革新的な素晴らしいチェーン引きの構造は。いや〜、何度見ても素晴らしい、だってだよ、片持ちに限らず、これまでは両持ちのスイングアームだって、チェーンの張りを調整すると、厳密にはリヤの車高が変化して、相対的にキャスター角も変化してしまったというのに、このチェーン引きなら、チェーンの張りを調整しても、全く車高が変化しないのだよ。ホント、やってくれるよな〜、ドカは。

 当然ながら私は、ドゥカティ999の、宇宙戦艦ヤマトに出てくる超巨大戦艦みたいなカウルデザインになど目もくれなかったが、この素晴らしいチェーン引きシステムが、もし特許で守られていないのであれば、このシステムを採用しない他のメーカーのデザイナーは、強烈ボンクラだと今でも真剣に思っている。

 なぜならば、このチェーン引きシステムは、ドゥカティというメーカーが開発した技術の中で、1番素晴らしいものだと言えるからなのだ。(それは言い過ぎだよやまちゃん)

天に向ってツバしたドゥカティ999Rの画像
(車高の変化のことなど全然忘れてるんですけどw)

★結局キワモノがモテるワケ
 そんな素晴らしいチェーン引き構造をもった999だったが、結果的には916シリーズの信者達の認知的不協和により大不評なマシンとなってしまい、ドゥカティはセールスを優先したのか、新しい1098では、この素晴らしい発明を棺桶に放り込み、代わりに墓場から悪評粉々たる片持ちを掘り返してしまった。

 つまりこのストーリーは、咲いている花をむしり取り、雑草に水をやるような行為としてメカオタクの目に映ったことだろう。

 しかし、メーカーという場所には、技術部門と営業部門の2つがあり、経営者は両者の言い分を聞きながら経営判断しており、999のルックスを継続することの方が、雑草に水をやる行為だと経営者は冷厳に判断したのだろう。そして、916ライクなデザイン、つまり片持ちの復活こそが、花に水をやる行為だと経営者は考えたのだと思われる。早い話が金儲け優先だよ。(笑)

 という訳で、暇つぶしにテキトーに書いているので、ドゥカティの逸話は、市場原理主義が技術の進歩と仲が良い訳ではないというオチになってしまったが、SBKでは、片持ちだってレースに勝ってるので、エキセントリックごときで目くじら立てないというのが、イタ公共のおおらかさなのだろう。

 えっ? 何々? 色々コマケーことガタガタほざいているけど、オマエはどんなスイングアームが好きなのかって? そりゃーもちろん、素人の方達をダマしてハクがつく、片持ちに決まってるっしょ。(爆)

 あんど、ズバリ、俺が次に欲しいのは、ビーエムのS675RRだよ。

BMW S675RRの画像







★番外
 上記は、全て文章を面白おかしくする為に書いた冗談だが、本当の所は、私は元々削りの職人だったので、熱が入ることで歪む溶接という儀式が心底嫌いで、部品は全てムクからの削り出しにすべきだと考えている。

 なので、スイングアームも、出来れば削り出しで作ってしまいたいというのが本音だ。↓みたいに。





 ↑は、2003年のモーターショーのKTMのブースで見た、恐らくRC8の試作車のスイングアーム。ボールエンドミルを使って、金型を削り出す要領で3次元的に削り出しちゃってる贅沢なシロモノ家電。スゴ過ぎ。(笑)






 ↑は、「俺でもイケそう」と思わせる、2次元的に削り出した、組み立て式のスイングアーム。このスイングアーム使ってたらかなりハクつくっしょ。もちろん、俺ならチェーン引きは路面と水平にするね。(笑)




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