Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


スピニングへの愛
2008年9月13日 18:51

 あまりやって来て欲しくない未来がやってきた。

 えっ? 何々? 食糧不足だって? えっ? 何々? エネルギー危機だって? それもそうなのだが、ここで話題にしたいのは、もっと狭いジャンルでの話、つまり、皆さんお待ちかねのバイクの話だ。つまり、である。ついにヤマハから、一般公道を走る、90度ごとに爆発しない並列4気筒車が販売されるのである。そしてそれは、スーパーバイクに参加することも意味している。つまり、世も末である。

 このことは、すでに、1.0コンセプトを貫き通すBLOGを展開しているチヒロ氏や、rider2.0を自称するきたりんなどが話題にしていたので私も知ったストーリーだが、さすが速さのみを追及するモーターサイクルスポーツにゾッコン惚れ込んでいる彼らだけに、エントリの内容は、そのメカニズムに関する記述が主だっていたが、私はもっと情緒的な問題として、彼らが全く話題にしない、“音”に対して文句がある。

 そう、まるで龍角散を飲ませたくなるようなmotoGPマシンは、市販のパラフォーの集合管の音と比較にならないほど汚く、90度ごとに爆発する4発の集合管の音をこよなく愛す私には、4メーカーの中で、バイクにまで“音叉”マークを貼り付ける、楽器を作っていることでも有名なヤマハが最初にパブリックロード(一般公道)からこのパラフォーの音色を棺桶に放り込んだことに対して、憤りの気持ちを抑えることが出来ない。

★スクリーマー
 こうした記述は、ますます懐古主義者のレッテルを貼られかねない。しかし、それならそれで構わないと開き直った上で、別の話もしてみよう。

 ところで、最近の若い世代と話していると、ビッグバンやスクリーマーという言葉自体が通じないこともあり、その時点で、すでに私は年寄り扱いされ、若い人達とのジェネレーション・ギャップを感じるものだか、1989年に多感な時期を過ごしたロードレースをこよなく愛す世代の方ならば、ビッグバンとスクリーマーの違いくらいは理解していることだろう。そう、1989年前後に得た我々の感動は、ホンダが1992年にビッグバンエンジンを投入したことで普遍的になったとも言える。しかし、この普遍性に少しばかり待ったをかけたのが、かのミック・ドゥーハンである。

 そして私は、個人的にケビン・シュワンツのワンフー(ファン)だったのだが、シュワ引退後には、走りを参考にするライダーを、このドゥーハンに絞った。

 ドゥーハンは、ビッグバンエンジンを搭載したレーサーを初めてWGPで走らせ、また、最初にその性能の恩恵を味わったライダーだと言うのに、途中からこのビックバンエンジンを拒否し、引退するまでの間、スクリーマーエンジンを好んで使用した。

 ビッグバン、つまり位相同爆というのは、モーターのようにスムーズなエンジンではスピニングしてしまうというスクリーマーの欠点を無くし、無駄なスライドが無くなることで乗りやすさとタイムアップの両方のうま味を味わうことが出来るシステムだった。

 しかし、こうした乗りやすいバイクで250からの転向組がハイパワーな500への乗り換えをスムーズにしたことで、こうした250からのステップアップ組に対する別のアドバンデージを稼ぐ為に、ドゥーハンはあえてスクリーマーを選択した。

 スクリーマーを選択したドゥーハンの戦略はこうだ。つまり、モーターのようにスムーズな回転でスピニングしてしまう特製をワザと利用して、スピニングさせることで高回転を維持し、スライドすることでマシンの向きを変え、マシンの向きが変わってスピニングが止まった時には、高回転でエンジンが回っている、つまりハイパワーが路面に伝わっているという訳だ。ドゥーハン自身、ビッグバンのエンジンだと、低中速の回転数からタイヤがグリップしてしまい、高回転をキープすることが出来ないので、ビッグバンはイヤだと言っていたようだが、シーズンオフにドゥーハンのマシンを試乗した伊藤真一選手が、フロントを軸にリアを振っていくドゥーハンのセッティングは、通常のマシンに比べて体力の消耗も激しく、コースによっては、同爆の方がはるかに体力的に楽というコースもあるので、このマシンでチャンピオンを取るというのは、改めてドゥーハンの凄さがうかがえたとコメントしていたのを私は聞いたことがある。

 そして私は、ロー・レイ・シュワという、いわゆる3強がバトルした1989年を過ぎ、ロー・レイ・シュワがいなくなってからのWGPに対しては、バトルは期待しないものの、ドゥーハンのライディングスタイルだけに関心が移っていった。

 そして、ドゥーハンがオリジナルのスタイルでチャンピオンを連続して取り続けた時代は、スクリーマーでスライドさせるドゥーハンvsリアタイヤをグリップさせる250上がりのヨーロピアンという図式が定着していた。

 しかし、ドゥーハン以外のスタイルのライダーが、どうやってもドゥーハンに追いつけない為に、これではダメだと、あえてドゥーハンのスタイルを模擬しようと努力したのが、かつての岡田忠之選手である。

★闇に葬られたスタイル
 岡田忠之選手は、250上がりの、言ってみれば私が嫌うタイプの生い立ちをもったライダーだったが、この岡田忠之選手のドゥーハンに対する執着は凄まじいものがあり、WGP時代の終盤には、ドゥーハンと同じスクリーマーを使用することで、これまでの250ライクなライディングスタイルを捨てたかのような、明らかにスライドを意図的にコントロールし、ライディングフォーム自体も、内側のヒザを前に突き出し、上半身がアウト側にくるような、ドゥーハンのライディングフォームに酷似したものに変化していた。

 そして、多くの玄人が誰も指摘しない中、私はドゥーハン引退後、岡田忠之選手のライディングスタイルの変化に対してワクワクした。なぜならば、このまま岡田忠之選手が成長し、ドゥーハンのスタイルで走るライダーが存在すれば、3強やドゥーハンなき後も、WGPにて走りを参考に出来るライダーが存在するということになるからである。

 つまり、私にとって、ライダーの国籍や生い立ちや宗教や信条などどうでもよく、単にスピニングを拝むことだけが私の希望だったのである。

 しかし、岡田忠之選手が引退するまでの数戦のレースで手に汗握った私の希望も束の間に終わった。なぜならば、バカホンダは、やっと新しいライディングスタイルが定着しかけた岡田忠之選手をWGPから引退させ、かわりに宇川徹選手をWGPに投入したからである。バカホンダとしては、世代交代が優先課題だったのだろう。

 これで私のWGPに対する希望の灯は完全に消えた。

★motoGP
 上記の私の個人的な脳内エピソードは、岡田忠之選手を持ち上げようと、後から私が“イイ話”に脚色した訳ではない。

 なぜならば、私は永遠にシュワのワンフーであり、ドゥーハンや岡田忠之選手のワンフーではないからで、ただ単純に、スクリーマーでスピニングさせて走るライディングスタイルを拝みたいだけなのである。要求は至ってシンプルだ。

 しかし、WGP、正確にはバカホンダがスクリーマー使いを追い出した後は、皆さんご存じのように、WGPは4スト化し、複雑怪奇なトラコン・システムを採用したmotoGPへと移行し、私の目には、motoGPファンは、レールの上を走るものが大好きな鉄ちゃん(鉄道マニア)との見分けがつかなくなった。

 そして、もうほとんどmotoGPに対して興味がなくなってしまった私は、例えば日本テレビの深夜のmotoGPの番組などを見ても、硬派なmotoGPファンからのお叱りと偏見の眼差しを恐れずに告白すれば、レース自体は早送りにしてしまい、東MAXのパドックでのセレブギャグや、芸能人と坂田和人氏のポケバイバトルの方が面白いと思うようになってしまった。つまり私は、ロードレースファンというよりかは、ただの低俗な一般視聴者に成り下がった訳だが、皮肉なことに、現在の状態の方が“普通の人”としての幸せを享受出来、同時に、視聴率を追いかけることで理念を失うテレビ局のプロデューサーに対してシンパシーを感じることが出来るようにもなった。

★スーパーバイク
 そんな私に対する天のおぼしめしが、スーパーバイクだった。

 そう、まるでサイゼリアの店員数のような頼りない台数で開催されているmotoGPに比べ、タイヤをスライドさせ毎回フルグリッドで熱いバトルを繰り広げるのがスーパーバイクだが、そんな私の楽しみすら、今度はバカヤマハが奪おうとしている。来年。

 しかも、小僧共が操るビクスクのようなボーボーいってるだけの大嫌いなドカに混じって、私のテンションを高めてくれる大好きなパラフォーの集合管の音が唯一の救いだったレースだというのに、ヤマハが、バカヤマハが、更に汚い音のパラフォーを投入するのである。つまり、世も末である。

 そして、今後これを皮切りに、他社もビッグバンを採用すれば、スピニングの歴史はパーペキに終焉する。

★私を救った素人映像
 そんな悲観論者の私を救ってくれたのが、yktさんの日記に紹介されていた、↓の映像だった。

 どうやらドイツの素人ライダーのミニサーキットでの走りのようだが、玄人の方達がこの走りを見ても、ただの無駄なスピニングで、タイムアップには全く貢献しないバカげた走りだと考えることだろう。

 しかし、すでに低俗な一般視聴者に成り下がった私は、レールの上を走るロープーよりも、こうしたアンダーグラウンドでの素人の快挙に興味が移行し、同時に、人生が捨てたものではないとも感じるに至っている。






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