Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


デンマークに首ったけ(1) 2008年5月12日 11:47

 皆さんは、デンマークという北欧にある国を御存じだろうか? ほとんどの方が詳細は知らないことだと思われるが、市場原理主義という名の猛毒を注入されたままこれまでの人生を生きてきてしまった私自身、今年に入って自分自身が社会民主主義者になるまで、デンマークという国に対してまったくノーマークだったのだが、この国について調べれば調べる程、“先進国”という称号は、こうした国にこそ相応しいのではないかと思うようになった。

 そのデンマークだが、この国は世界最高レベルの社会保障制度を整え、食糧もエネルギーも全て自活し、世界でも最も民主主義が進んでいる国と言える。
 私が驚いたのは、デンマークに留学したことがキッカケとなり、その後もデンマークに住んで、結局デンマークの国籍を得てしまったという日本人の方の著書を読んだ際に知ったことなのだが、この日本人の方のお孫さんが生まれた際、このお孫さんは、生まれつき心臓に欠陥があり、生後1ヶ月で心臓の大手術を受けたが、その後も何度も手術を受けたものの、結局デンマークには専門の医師がいないということで、今度はイギリスに渡り入院したり手術したりしたらしいのだが、デンマークでの集中治療室の1日あたりの入院費は約50万円で、6年間に渡り繰り返した入退院の数は数えきれず、このお孫さんには、イギリスでの費用を含めて億単位の医療費がかかっているとのことだが、こうした費用は、イギリスでの費用も含めて、全部タダ、ホントにタダ! 医療費負担ゼロ! と、まるでアフリカからアメリカに連れて来られた奴隷の給料みたいだが、元々は日本人だった人の孫ですら、「自国民の命だから」という理由で、医療費は全額国の負担になっているのである。また、それだけでなく、このお孫さんが入院した際は、親である娘夫婦が付き添いをすることになるが、病院にはそうした付き添いの人用の宿泊施設もあり、その施設の利用料も食事代も全部無料、そして、付き添っている間に仕事を休んでも、その給料も全額国が負担するのである。

 ↑の例は、私が最も驚いたお話だが、これだけでなく、デンマークでは、出産費用も葬式費用も全部税金で賄われ、出産だけでなく、病院への入院や治療費も全部無料で、小学校から大学までの教育費も全部無料なのである。

 しかし、いくら税金で賄っているからと言って、こんなバラまき型の福祉を行っていれば、国の財政は破綻してしまうと考えてしまう方も多いだろう。しかし、デンマークの国家財政は黒字になっているのである。
 それだけではなく、エネルギー自給率はヨーロッパで最高の156%を達成し、食糧自給率はなんと300%を超えている。
 ちなみに、我が国の食糧自給率は39%と、ついに40%を切ってしまったが、これは178ヶ国中129位で、先進国では最下位である。我が国は、水資源にも太陽光にも自然にも恵まれた国だと言うのに、なんで砂漠の国や孤島の国レベルの食糧自給率になっているのだろうか? また、デンマークは国をあげて風力発電に取り組んでいるが、その結果、エネルギー自給率も高くなり、エネルギーを海外に輸出するようにまでなっている。しかし、これまた日本という国は、元々エネルギー資源はないが、水力もバイオマスも風力もあるという国だと言うのに、なんで石油や原子力への依存にいつまでもこだわり、エネルギー自給率がたったの4%、原子力を加えても20%という低い水準に甘んじているのだろうか? なぜ我が国は、自然エネルギーの開発にこうも消極的なのだろうか?

 しかし、日本をデンマークのような理想的な福祉国家にして牧歌的な国にしてしまえば、今度は先端技術の面では他国に遅れを取ってしまうと考える方もいるかもしれない。しかし、先端技術で日本は先進国かと言うと、例えばIT競争力の世界におけるトップは、食糧自給率が300%を超えているデンマークであり、日本はなんと19位である。

 また、↓には主なデンマークのビジネス上の特徴も挙げてみよう。

ビジネス環境 世界1位
汚職や不正が少ない 世界1位
外国人投資家への開放性 世界1位
顧客満足 世界1位
巨大な試験市場 世界1位
電子ビジネスでの対応 世界1位
情報社会指数 世界1位
労使関係 世界1位

4月25日放送のワールドビジネスサテライトより

 上記のように、ビジネスにおいてもデンマークは超一流と言えるし、それでいて福祉も最高、国民の80%が自国を愛していると答える、こんな国が現時点でこの世に実在していることに、私は大きく驚くと共に、我が国の現状に対して、大きな憤りを感じている。

★東京一極集中の真の理由
 日本の食糧自給率は39%だが、東京の食糧自給率は更に下がって1%である。そして、我が国は、いわゆる大企業はみんな東京に本社を起き、東京一極集中に拍車をかけている。常識的に企業利益を考えれば、土地の値段がバカ高い東京にて、高い家賃や地代を払って東京に本社を置くのは、大変な経費の無駄である。また、企業だけでなく、そこに住む人達の食糧を運ぶ為に、ガソリンを大量に消費し地球温暖化ガスを撒き散らし、毎日数1000台ものトラックがこの東京に流れ込み、地方で発電したエネルギーも膨大なロスの元、東京に運ばれてくる。宇宙人が見たら、なんとも効率の悪いことをしている生物だと感じることだろう。
 そして、こうした長距離輸送にて食品を販売する為には、様々な加工や食品添加物が必要になるが、こうした加工食品がもたらす健康被害は、医療費の高騰にもつながってしまい、更には、大量消費地に大量に食品を運ぶことで、そこで売れ残った食品は無駄に廃棄され、更には、製造日を貼り替えて儲けようという悪徳業者の誕生を後押ししたりもしている。
 しかし、地方に企業が分散していれば、土地の値段も下がり、交通渋滞も少なくなり、山手線や埼京線での痴漢被害や、痴漢の冤罪の被害もグッと減少することだろう。

 フツーに考えれば分かりそうなことだし、それにも増して、東海地震と関東直下型地震は、“たった今”起こってもおかしくないと有識者が警告している為、政治家も以前には首都機能移転を提案したことがあるが、このアイデアをぶっ潰したのが、御存じ悪名高い石原慎太郎である。



 では、なぜ日本の企業は、地代や家賃が高い東京などに好んで本社を構え、また、官僚は企業や政治家に対して東京一極集中を後押しするよう仕向けるのだろうか? 理由は簡単であり、東京に政治と経済が集まっている方が、官僚と政治家と企業の癒着がスムーズに行われるからである。
 日本では、長いことずうっと、官僚が業界を指導する、いわゆる“護送船団方式”が採用されてきたが、官僚達は、自分達の都合の良い、自分達の指導に従順に従う企業を優先することで、自分達の影響力が業界に残るよう手を施している。それは簡単に言えば、自分達の再就職先、つまり、“天下り先”を確保する為である。

 従って、東京一極集中とは、天下りの温床を許した国の末路であり、その結果、国民は自分達の生活に犠牲を払っている。

★封建社会の負の遺産
 しかし、デンマークには、“天下り”というシステムがない。デンマークの首都はコペンハーゲンだが、多くの企業は首都に本社は構えていない。例えば輸出を主に行っている企業であれば、首都にこだわるよりも、輸出する国の国境に近い場所に本社を置いた方がはるかに効率が良いからである。日本だって、例えば中国への輸出が主な業務という会社であれば、わざわざ太平洋側に本社を置くよりも、日本海側に本社を置いて、日本海側からの中国への渡航が容易になるよう社会インフラを進めた方が、企業にとっても国益にとっても大きなメリットになるだろう。しかし、こんな簡単な理屈ですら、我が国ではほとんど語られることはない。

 話を戻して、デンマークに天下りがないのは、企業側としては、使い物にならなくなった高齢者を雇ってもメリットがないことと、官僚や役人の側も、それまで積み立てた年金で、十分に第2の人生を謳歌できるからである。非常にシンプルで単純な話だ。

 では、なぜ日本では、こんなシンプルで当たり前のことも理解せず、東京に本社を構えることが社会的信用につながると勘違いしてしまう人を多く生み出してしまうのだろうか? そしてその結果、国民は実際には福祉や医療を切り捨てられて、自分達の生活が苦しくなっていくというのに、こうしたバカげた中央政府をなぜいつまでも放置してしまうのだろうか? 以下には、この件についての友人との会話を紹介したいと思う。


【私】
 デンマークでは、1708年に「乞食の禁止に関する法令」が施行されていて、1799年にはコペンハーゲン市ってとこで、「貧困救済計画」っていうのを導入していて、1803年にはデンマーク政府が全土を対象として「貧困計画」を実施して、「貧困局」という局まで作っちゃってる。
 ところが、日本においては、鎌倉時代以降の670年の封建制度の元では、国民の為に社会福祉政策をとったことは全然なく、貧困者への救済は、各藩やお寺とかの私的団体に委ねられていて、幕府や天皇といった中央集権が貧困者を救済するという事は歴史上ほとんどなく、時々行う凶作時の租税の削減とかも、貧困を根本的に無くす政策というよりかは、どちらかと言うと権力維持の為に利用されたという性格が強くって、こうした歴史的背景があって、日本の中央集権の気質というものが醸成され、今に受け継がれているのだろうか?

 日本には、生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法、母子福祉法とか、名前は立派な法律が沢山あると言うのに、実際には生活保護を打ち切られて餓死者が出ている現実を見ると、“仏作って魂入れず”になっている感じ。でもって、なんで魂が入らないのかと言うと、デンマークと違って、日本のこれまでの中央集権には貧困者救済の歴史的背景がないからなんじゃないかと、そんな思いが急激に高まって、しかも、それを容認して黙して語らずというのも、これまた封建時代からの民衆の悪しき慣習で、それが現在のパンピーの民度の低さにつながっちゃってて、ようするに日本には、民主主義なんて全く根付いていないというのが現状なんじゃないかと思ったりしている今日この頃。。。

【私の友人】
 混乱の戦国時代を信長→秀吉→家康って統一され、特に徳川家康が2度と戦国時代に戻らないように、っていう気持ちが強くて、将来の将軍がバカでも国家が崩れないくらいに中央集権のシステムを徹底して確立したんだと思う。
 さらには兵農分離とか士農工商みたいな身分制度を徹底することで、社会の上下の流動性をなくし、そういう意味では「安定した」社会を作って、長く続いた“平和”な江戸時代が過ごせたのかもしれないけど、一方でそれは民が「自分達のための自治権」なんてこと想像すらできないような環境でもあったわけだよね。“民主主義”は開国後に西洋スタイルのモノが入ってきたわけで、江戸幕府/明治政府が、欧米とやり取りする上で否応無しに取り入れたんだろうし、国民の方も、洋服を着て「ふ−む、これは便利だ」と感じて着るのと同様に西洋式民主主義を取り入れたわけで、勝ち取った民主主義ではなかったわけだよね。

 一方で西ヨーロッパ諸国の方が“民主主義”が本物っぽく見えるのは、フランス革命に代表されるけど、啓蒙思想家達の影響が大きかったにせよ、国民がまさに血だらけになって封建制度をたたき壊し、特権階級から奪いとった権利としての民主主義だから、筋金入りに見えるんだと思う。


 税金を出して“ハコモノ”を作ったり、何かイベントをやりましょうと言えば、それはありがたいとホイホイと乗っかってしまう、「寄らば大樹の影」と言った、日本人の中央をありがたがる気質というものに対しては、いい加減辟易するが、封建時代からの歴史を持つ、“官尊民卑”の負の遺産が現在も根強い我が国においては、政治家や官僚の行う行政にただただ服従してしまう国民性が強く、国家の運営に参加するなどと言う意識はほとんどないと言える訳だが、特に地方の人達や高齢者の方達ほどこの傾向が強く、それであれば都会の人達や若い人達は政治に対する参加意識が高いかと言えば、それらの人達はそれらの人達で、今度は戦後にアメリカが注入した利己主義をベースとした個人主義と、3S(スポーツ、スクリーン、セックス)政策に代表される愚民化政策により、むしろ地方の人達や高齢者よりもよっぽど政治意識は少なく、生まれた時から裕福であることも手伝って、食いたい放題のデタラメな飽食グルメ文化にうつつをぬかし、大量消費大量廃棄の権利を謳歌することで骨抜きにされ、自分達が行動しないことで政権交代がされないというのに、政権交代しないから選挙に行っても無駄と、より一層政治よりも自分の利己主義を優先する傾向が高まっている。

 こうして、元々中央をありがたがる地方や高齢者の気質と、政治参加の意識のない都市部の人達や若者に、更に政治について考えさせないようアメリカが仕組んだことにより、我が国はデンマークとは全く逆方向に向かって突っ走っている訳だが、そろそろ大人達は、自分達の現状を認識し、デンマークのような国についてもっと勉強するべき時だと私は考えている。

 しかし、現実に目を向けると、食糧の61%とエネルギーの96%を海外に依存し、国家財政は赤字で、更に毎年の累積の債務が膨れ上がっている中で、多くの日本人に危機感はなく、相変わらず食いたい放題のデタラメな飽食グルメ文化にうつつをぬかし、大量消費大量廃棄の権利を謳歌している。
 そして、飽食のツケにより国民の60%はその後に生活習慣病で苦しんで死ぬ訳だが、その際に、例えば手術代が5000万円ですと言われ、手術すれば延命できるとしても、手術代がなければ、そのまま死になさいというのが、この国の福祉の考え方であり、こうした大切な国民の命が1つ減っても、与党の政治家は少子高齢化が問題だと叫びながら、コーポレートクラシー(企業利益優先)を影で優先する政策に明け暮れている。

 しかし、だからと言って国民は、社会民主主義的な政策を唱える野党の政治家に投票する為に選挙に行くよりかは、選挙が行われる休日には、汗水流して稼いだお金を積極的に騒音や排気ガスに変換して行楽地へと向かい、自分自身のバカンスを優先しているのが現状とも言える。そして、こうした現状に対して警告する私のような人間に対しては、「ヒステリックでキモい」と揶揄して、笑い話の対象として、文字通り一笑に付してしまうようだ。


デンマークに首ったけ(2)




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