Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


見えざる犠牲者 2007年7月16日 19:50

 その内状況は落ち着くだろうなどと考えてはいけない。事態は益々悪化することだろう。
 我が国で販売されるオートバイメーカーで、最も好調なのはハーレー・ダビッドソンである。理由。元トヨタの人間である、やり手の社長が経営するハーレー・ダビッドソン・ジャパンは、国内のメーカーとは全く違うマーケティング手法で業績を伸ばし、そのブランドバリューを確実なものにしたからである。
 他方、隣の芝生が青く見えた国内メーカー、その中でも、特にホンダとヤマハは、ブランドバリューを引き下げることにしか貢献しない、自転車屋上がりの父ちゃん社長母ちゃん専務の零細な販売店を切り捨てにかかった。
 こうした弱小販売店が廃業、もしくは家族経営に切り替えたおかげで、とばっちりを食ったのは、これまで朝から晩まで働かされても、年収が250万円程度だった、従業員の整備士達である。
 彼らの年収は、ハーレー1台分程度しかなかったが、今後、彼らがワーキングプアー化することで、彼らの年収は、CBR1000RRの車体価格程度まで下落することだろう。
 販売店としては、人件費よりもノルマである仕入れを優先するようになったので、つまり彼らは、CBR1000RRに自分の居場所を奪われたのである。否。もっと正確に言えば、零細販売店は、リスクを背負ってCBR1000RRなど在庫しないので、彼らはより安価な中国製のトゥデイに自分の居場所を奪われたのである。零細販売店は、トゥデイ(今日)のことを考えるのが精一杯である為、トゥデイを仕入れ、トゥデイ(今日)を生き抜き、従業員の未来を奪った。
 しかし、である。私は彼らのその後の人生に対して同情はするものの、どうしてやることも出来ない。なぜならば、時価総額が8.4兆円もの企業が、何も出来ずに放り出した人材なのだから。
 こうした大企業の販売店イジメによって犠牲となった整備士達に対しては、コムスンやミートホープの社員よりも世間は厳しいと言える。皮肉な見方をすれば、いっそのことメーカーが不祥事を起こしてくれた方が、世間からの同情が集まったのかもしれない。
 しかし、国内2輪専門誌を含め、業界は現況を座視するだけで、労働組合を持たない彼らに残された主な道は、現在泣き寝入りだけである。(ひょっとしたら、何の関係もない、私のこの文章が、初めての告発なのかもしれない)

 このように、店先に“並べておけば”バイクが売れたバブルと、空前のバイクブームが重なった80年代が終わり、それまでの経験とカンと言った職人芸に頼ってバイクを売っていた我が国の2輪業界に、明確なロジック(論理)のあるマーケティングで参入したハーレー・ダビッドソン・ジャパンが、どんどんシェアを奪っていった2000年代においては、ハーレーvs国内メーカーの構図から、前述の整備士達が見えざる犠牲者となった。アフリカには、こんな言い伝えがあるらしいが、「象同士が戦うと、つぶされるのはアリだ」という訳である。
 では、まだ生き残っている2輪業界に属す人達の為に、問題が山積している割には、何1つ手は打たれていないといった、我が国の2輪業界の根本的な問題について、次回以降語ってみるとしよう。




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