Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


フランチャイズの優位性 2005年7月26日 17:05

 かつて、強引な中古車販売のメッカだった上野のバイク街は、現在はゴーストタウン化している。
 20年ほど前、そう、まだ私も若かった頃のことを思い出すと、私は絶対に店員に目を合わせることなく、置いてあるオートバイにも絶対に視線を向けずに、まっすぐ前を見て足早に歩いていても、そこが上野のバイク街だった場合には、中古車販売店の店員から、次のように声をかけられたものである。
 「よっ! お兄さん! 何が欲しいの? CBX?」
 そう、まっすぐ前を向いて歩いている人間のニーズに対して、(勝手に)CBXという車名まで具体的に提示してくるという、この押し付け販売は、中古車販売におけるセオリーだったのである。昔までは。

 しかし、現在では、この押し付け販売はすっかり影をひそめ、中古車販売店は、全く別の姿に生まれ変わった。
 視野狭窄な業界人は、この変化は地殻変動だと思っているようだが、他の業界に対してもアンテナを広げることができる経営者ならば、2輪業界に限らず、小売業界は、大型店舗のスタイルに移行していることに気付いているだろう。
 2輪の中古車販売店においても、レッドバロンなどの他、どれも他の業種の大型店舗に似通ってきている。そこには沢山のオートバイがストックされ、整然と並べられ、適正な価格が表示されている。
 訪問客は、専用駐車場に自家用車を停めた後、何百台もの車両の中から欲しいオートバイを物色し、固定給制の販売員(賃金を低く抑える為に、大抵は20代の若者である)からは、最低限の助言だけを得て、購入を決定する。
 そこでは販売活動は行われていない。
 そう、現代においては、他の小売業と同様、商品を薦めたり、保障したりするものは、成績優秀な営業担当者の能力ではなく、フランチャイズがその役割を代行しているのである。

 ところで、あなたはフランチャイズと聞いて、一体何を想起するだろうか? 多くの人は、“フランチャイズ・チェーン”という言葉を想像するだろう。
 この場合のフランチャイズとは、“営業権”という言葉を意味し、フランチャイズ・チェーンとは、この営業権を渡して商売させることで、皆さんもクリーニング店やコンビニなどでよく御存知だろう。
 しかし、会計用語で言うところのフランチャイズとは、経済的“のれん代”を意味する。そう、フランチャイズ・チェーンとは、日本的な言い回しでは、“のれんわけ”といった感じでもある。
 さて、この“のれん代”だが、これは前述したように、立派な会計用語であり、例えばあなたが、現金や土地や建物や機械設備や什器などの資産の合計が10億円という会社を所有していたとしよう。あたなは自分の持っている会社を売りたくなった場合には、あなたの会社は10億円で売りに出される訳だが、こうした資産とは別に、あなたの会社には、商品やサービスを売るに当たって有効な“のれん”を有していた場合、その“のれん”にも資産価値があり、仮にその値段が10億円だった場合、あなたは自分の会社を20億円で売却することができる訳である。

 例えば、レッドバロンの各店舗が、レッドバロンという名前ではなく、それぞれが全部違った名前の店舗として経営されていて、レッドバロンという社名は特別誰も知らなかったとしよう。この場合、仮にレッドバロンが売りに出されても、恐らく経済的“のれん代”はゼロである。しかし、全国で統一した店舗名を持ち、レッドバロンの名前を全面に押し出すことで、この名前にも資産価値が生まれるのだ。

 私は、自分が尊敬する投資家から、フランチャイズの優位性について学んだことがキッカケで、2輪業界における『勝ち組』と『負け組』の違いも鮮明に理解することが出来た。
 もちろん、『勝ち組』には強力な“のれん”があるのだ。
 普通に考え、他の業種にもアンテナを広げておけば、こんなことは常識の範疇なのだが、逆に言うと、フランチャイズをあなどり、大手の販売店にいどむ弱小な店は、その営業努力もむなしく、手を携えて墓場に向っているようにも見えてしまう。

 ところで、2輪業界に関わっていると、次のようなシーンによく出くわす。つまり、非常に整備のウデが良く、知識も豊富で、オマケに人当たりの良い人が経営するバイク屋の経営があまりよろしくなく、その店を愛用している顧客は、大型店に行く客はバカだと思っていることである。
 しかし、子供達に人気のあるおじさんやおばさんが経営していた駄菓子屋は現在は死滅し、今の子供達は、現在はスーパーやコンビニでお菓子を購入する。
 非常に親切な人がいた酒屋も、どんどんセブンイレブンに鞍替えし、愛想の悪い店員を時給で雇う。(その方が利益率が上がるのである)同様に、八百屋のようなかけ声が特徴的だった小さなパーツショップはつぶれ、みんなパーツはナップスやライコランドに買いに行く。

 いかがだろうか? “のれん”というものは、恐ろしい価値を秘めていて、なんと、従業員がバカでも許されるのである。
 従業員だけではない。場合によっては、経営者がバカでも許されるのだ。
 つまり、強力な“のれん”が有れば、あとは自動操縦でもうまく行くのが現代の小売業の特徴であり、それはまるで、バランス感覚が全てだったライト兄弟と、文字通り自動操縦が特徴的な現代のジャンボジェット機の違いのようだ。

 どうだね? 憤り(いきどおり)を感じるかねバイク乗りの諸君。あるいは小さな名もないバイク屋の経営者の皆さん。
 そんなあなたはこう反論するかもしれない。「小さなバイク屋だって利点はある」と。
 ほとんどないと言っていい。
 逆に不利な点がいくつもある。以前ならば、販売店に対して「生かさず殺さず」という態度をとっていたメーカーは、最近では「生かさず殺す」という態度に鞍替えした為に、今後、メーカーは益々小さな販売店を相手にしなくなるだろう。そして、メーカーの看板だよりだった為に、営業の指針を失った小さなバイク屋は、その後、根なし草化することだろう。
 もし、強力なフランチャイズを持つ販売店に真正面から勝負をかければ、それは大変なリスクを伴い、非常に長く、とても困難な、お金もかかる、ほとんど絶望的な道のりになるかもしれない。
 ちなみに、私が考える慎重な予測では、結果は「死」である。

 では、なぜ強力なフランチャイズを持つ大型店に対して、名もない小さな販売店は無力なのだろうか?
 それは、小さな販売店が、良い商品や良いサービスや適正な価格を顧客に実際に提供し、また、それを顧客に訴える優秀なセールスマンぶりを発揮したとしても、それはあくまでも顧客が店内に入ってきてからの勝負であり、それに対して強力なフランチャイズを持つ大型店は、これらを全て“のれん”を使ってプリセル(事前販売)してしまっているからなのである。
 つまり、ここでもビジネスの争いは、商品やサービスの質や、価格が問題なのではなく、全ては消費者の知覚の争いこそが重要なのである。

 「やることをやっていれば、利益は後からついてくる」
 これは懐かしい根性論である。現在では、やることをやっていなくても利益を上げている大型店が『勝ち組』に居座っているので、私を含めて小さな店の若い経営者は、戦略的知性を発揮しなければならないだろう。
 もちろん私自身も、ただの水をエビアンに変えたいと、常日頃から考えている。
 そう、これこそが、『勝ち組』に勝負を挑むに当たって必要な、ドンキホーテ的な発想なのだった…。

 とまー、いきまいてはみたものの、自分の商才に自惚れするほど思いあがっている訳ではないので、オートバイの販売の『レッドバロン』や、パーツ販売の『ナップス』が上場したあかつきには、私はこれらの企業の株を買って儲けるとしよう。恐らくこれらの企業の株主になれば、レッドバロンのステッカーを貼ったオートバイをみかけたり、ナップスのレジ袋をかついだバイク乗りのオニーチャンをみかけた日の夜は、非常にグッスリ眠れることだろう。4輪の買取屋の『ガリバー』の株は買いそびれたので、強力なフランチャイズを持つ2輪関係の企業の上場が待ち遠しい。


★追伸
 キタリン、カール・ルイスは、かなり厳格なベジタリアンということで、ベジタリアンの間では有名だぞ。あと、名前は知らないけど、以前ベジタリアンの友人に教えてもらった話で、ベジタリアンのプロレスラーというのもいるらしい。
 あんど、ベジタリアンの間では、主にグルテンなどを使って作った肉に似せた食べ物のことを、“擬似肉”とか、擬似肉を使った料理を、“もどき料理”と呼んでいるので、日記の「肉レプリカハンバーグ」という表現は、バイク乗りっぽくて面白かったぞ。
 ちなみに、私は肉を食べる“疑似体験”もダメなタイプなので、自然食レストランで出される擬似肉も残してしまうのであった…。
 『電車男』のドラマの中で、「オタクと付き合えますか?」という質問に対するアイドルの答えをパクらせてもらえれば、「痛い! キモイ! ウザイ! っつーか無理!」という感じだ。(笑)


キタリンの日記




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