Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


成功したハーレー・ダビッドソン 2005年3月11日 13:09

 私がオートバイメーカーに対して訴えていることは、ラインをしぼることであり、ラインを増やしたい場合には、スピンオフ(分社化)することである。
 しかし、これは別に私独自のアイデアという訳でなく、歴史が証明している事実であり、証拠は色々とある。
 そして、私が上げている証拠の中で、最も説得力があるのが、ハーレー・ダビッドソンである。

 説明しよう。
 私がベタ褒めするハーレー・ダビッドソンも、1981年までは冴えないオートバイメーカーだった。当時、ハーレー・ダビッドソンはアメリカのオートバイの販売のシェアの、たったの3%しかとっていなかった。おまけに儲かってもいなかった。
 なぜか? それは、AMFという企業の子会社だったからである。
 AMFは、仕方がないので、ハーレー・ダビッドソンを売りに出した。しかし、誰も買い手にならなかった。しかし、ハーレー・ダビッドソンの幹部達は行動を起こした。LBO(レパレッジ・バイ・アウト)である。
 ハーレー・ダビッドソンの幹部13人は、買収する企業の資産を担保に、ハーレー・ダビッドソンの買収をAMFに提案したのである。
 AMFはこれに応じ、ハーレー・ダビッドソンをスピンオフした。
 ここからがハーレー・ダビッドソンの躍進である。ハーレー・ダビッドソンのアメリカでのシェアは20%を超え、時価総額もうなぎのぼりに上昇した。スピンオフの成功である。

 もちろん、ハーレー・ダビッドソンの成功は、すでに様々な専門家が分析している。日本的な経営スタイルの採用、生産ラインの改善などなど、どれも正しい分析だが、ではなぜこれらをAMF時代に行わなかったのだろうか? 実は、根源的な理由があるからである。スピンオフした企業の社長は、自分の事業に対する知識がある。また、強烈な成功へのモティベーションもある。理由。それは報酬である。もし、ただの幹部クラスの人間が会社を成功に結び付けても、「ああ、よくやったね」と言って、肩を叩かれるだけである。しかし、スピンオフされた企業のトップならば、自分の経営する会社の業績が上向けば、自分の給料もそれに比例して上昇するのである。これが強烈なモティベーションのキッカケとなる。従って、スピンオフした企業は大体が儲かる企業になる。スゲー儲かる企業になる場合もある。

 スピンオフされたハーレー・ダビッドソンの現在の社長は、オートバイを売ることにしか眼中にない。ラインの拡大にも興味はない。ハーレー・ダビッドソンは絶対にクルマは生産しないだろう。ハーレー・ダビッドソンは絶対にスクーターは生産しないだろう。ハーレー・ダビッドソンはmotoGPなどに株主が投資した大切なお金を使わないだろう。そんなヒマがあるのならば、ハーレー・ダビッドソンは顧客ロイヤリティーを充実させることに精を出すだろう。ハーレー・ダビッドソンはハーレー・ダビッドソンを買った顧客に対して、HOG(ハーレー・オーナーズ・グループ)というオーナー組織の会員サービスを提供している。また、ハーレー・ダビッドソンの社長は、自分が作っているオートバイを黄色い猿に売る為に、極東の島国までやってきて、免許制度を変えさせたり、高速道路の2人乗りの解禁を訴えたりといった、我が国に対する内政干渉まで行っている。しかし、中国共産党の我が国の総理大臣に対する靖国参拝への反対と異なり、こちらの内政干渉には誰も反対はしない。理由。全員が幸福になるからである。もちろん最も幸せになるのは、ハーレー・ダビッドソンの株主である。ニッポン放送の社長と異なり、株主重視だ。このことは、ハーレー・ダビッドソンに対して、ネクタイをしない若者が買収に名乗りを上げても、株主が株を売らないので、買収されないことにもつながってる。ニッポン放送は順番を間違っている。若者の行動の間違いを指摘する前に、自分の行動の間違いを正すべきである。灯台下暗しだ。

 ホンダの新社長を見てみよう。自分の給料を上げる為に、ホンダの社長は何を行うだろうか? 最も儲けている自動車部門へのテコ入れである。2輪の成績を上昇させても、会社全体では大きく響かない。従って二の次である。
 ヤマハの新社長を見てみよう。自分の給料を上げる為に、ヤマハの社長は何を行うだろうか? 最も儲けている船やバギーや産業用ロボットへのテコ入れである。2輪の成績を上昇させても、会社全体では大きく響かない。従って二の次である。
 スズキは、カワサキは? 同じことである。日本のメーカーで、オートバイだけで生計を立てているメーカーは、いない。
 これが経営を弱めている。しかし、元々の会社が巨大な為に、株主の投資したお金の無駄遣いも軽視されている。
 motoGPを見てみよう。motoGPに参戦しているメーカーはどこだろうか? 日本のメーカーとドゥカティである。ドゥカティも素晴らしい企業だが、ハーレー・ダビッドソンにはかなわないと私は考えている。それは、レースで無駄遣いしているからである。結果、色々な企業にたらいまわしで買収されている。ラインを拡大しないことだけが唯一の救いだ。
 ドゥカティはすぐにレースから撤退すべきである。そうすれば財務基盤が強くなり、浮いたお金で配当金でも出せば株価は上昇し、買収されることもなくなるだろう。
 日本のメーカーはmotoGPから撤退すべきである。そして浮いたお金は株主に還元することである。しかし、あなたは聞くだろう。ロッシは、ビアッジは、玉田はどこに行くのかと? 祖国に帰るだろう。あるいは市販車レースに参戦するだろう。そこでは純粋な“速さ”の勝負が展開されるだろう。マイケル・スコット氏が危惧する現在のmotoGPのように、メーカーやライダーやオートバイは、企業の取引のネタに過ぎないという状態よりかは、健全な姿に戻るだろう。

 後ろ向きとも取れる私の文章の内容は、多くの業界関係者に対してショックを与えるだろう。中には、私の文章を破滅の予言と捉える人もいるだろう。しかし、中にはショックで目を覚まし、私の文章の内容は、「別の道に進め」という勧告と考える人もいるだろう。

 最近では、ニッポン放送をめぐるフジテレビとライブドアの争いがクローズ・アップされたことで、企業とは誰の物かが語られるようになった。だいぶ遅れた話だ。
 一言で言えば、企業は株主のものであり、経営者はひたすら株主の為に企業のマーケット・バリュー(株式時価総額)を引き上げるべく努力しなければならないのである。
 もし企業の値段が、その企業の内在価値よりも安ければ、バーゲンハンターに買収されるだけである。主婦が安い大根をスーパーで買うのと同じである。もし、売っているものが多くて訳が分からなくなったら、経営者は分かる部分に特化し、その他は、閉鎖、売却、スピンオフすべきである。ダイエーを見よ。新しいダイエーは食品に特化した。京セラはデジカメから撤退した。高収益部門に全てのモノ(ヒト・モノ・カネ)を投入し、不採算部門からは撤退する。それがゲームの全てだ。




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