Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


過小評価されるヴィジョン 2005年2月13日 17:37

 会社の金でカニを食べる人のように、現在の私はホーネット600に夢中になっているので、日記を書くヒマがなく、親愛なる読者には申し訳ないが、日記のネタを得るべく、2輪業界に舞い戻ったというのに、ミイラ取りがミイラになるかのような本末転倒な現況は、全くもって皮肉な話である。
 では、前フリはこれくらいにして、いつもの調子に戻ろう。

 さて、サーキットの“おおかみ”ならぬ、サーキットの“おかみ”、つまりは、漂白された、骨抜きの、おとといきやがれ方式のMFJだが、私が16歳の時に初めて出会ったこの組織は、16歳の少年が傍観しても、非常にアンダスタンダブル(分かりやすい)典型的な官僚組織だった。
 そして、このサーキットの“おかみ”は、サーキットから人間の人格的要素を排除することで、ライダーに退屈と無関心という高い代償を課したが、実際にはそれなりに良く機能した。そして、この巨大な組織から見れば、より歴史のあるMCFAJも、まるでマイクロソフトに対するアップルに過ぎなかった。
 だが、この組織には、雨のレースの時に、興行を優先する為に、「ライセンスを剥奪するぞ」と脅して、国際A級ライダーを500ccのマシンに無理やり乗せたりといった、唾棄すべき暗部もあった。しかし、我が国の2輪のジャーナリストは、真のジャーナリズムに対して命をかけてはいないので、こうした暗部は表には出なかった。
 しかし、“おかみ”であれ、好き勝手なことをやれば、いつかはそのツケを払わなければならないだろう。そして、“おかみ”にとって悪いニュースは、その“いつか”は、現在である。

 我が国のモーターサイクルスポーツを取り巻く環境の問題は、イコール、サーキットの“おかみ”の問題である。
 ところが、多くの関係者は、やるべきことが多い割には、何一つ手は打たれていないといった現状に対して、歯がゆい気持ちを抱いているようだ。
 では、一体この先、どうすればいいのだろうか?

 そう、正しい解答を得たいのであれば、正しい質問をするのがいいだろう。
 例えばこうだ。
 「おかみよ、あなたは一体何がしたいのか?」

 官僚は、まるで社会人が行うラジオ体操のように滑稽な、額縁に入った美辞麗句を丸暗記していない限り、即答は出来ないだろう。
 つまりは、ヴィジョンの欠如である。

 我々は、ヴィジョナリー・リーダー(組織が目指すべき理想像を明確に打ち出せるリーダー)を求めているようだ。
 しかし、残念ながら、おかみには顔がない。つまりは、現状を打破するリーダーの不在である。

 私はおかみを反面教師にすることで、自分に絶対の自信を持ってリーダーシップを発揮しようと、これまで生きてきた。そうした意味においては、私はおかみにいくら感謝しても足りないくらいである。
 えっ? 何々? 自信過剰な人間は、みんな精神病院にいるって? ハハハ、まーそれもそうかもしれない。つまりは、私のような折り紙付きの異常者は、世の中を安定させることよりも、世の中を破壊して新しい世界を生み出す役割の方がお似合いなのだろう。

 そうした意味において、私が参考にしている人物は、反ユダヤ主義の大物で、熱烈なナチス・ファンだった、少々変わり者の天才、そう、自動車の大量生産方式を編み出した、かのヘンリー・フォードである。
 ヘンリー・フォードは、エンジニアとしての安定した収入に背を向け、2度も会社を設立してはやめてしまい、3度目の正直で、フォード・モーター・カンパニーを作った。

 面白いことに、私の人生を振り返っても、失敗とチャレンジの連続であり、私の価値観の中には、安定という概念がないようである。
 22歳の時には、私もやはり安定したサラリーに背を向け、『MY CONCEPT』というショップをオープンし、その後、23歳の時には、日本で初めて、ライセンス・免許不要、オートバイであれば何でもアリの草レースを開催し、現在では、日本で初めてのホーネット専門店の『HONES』をオープンさせた。
 ぶっちゃけて言えば、他人の意見など意にも介さず、やりたいようにやっているだけである。

 自分自身のことを述懐するので、簡単な話だが、私のようなタイプの人間の特徴は、対人関係能力よりも、体系的思考能力を重視することである。
 これは、人間関係がターヘー(下手)だという単純な意味ではなく、対人関係のスキルよりも、同じ価値観やビジョンを共有するように、他人にモティベーションを与える能力を重視するという意味である。
 私は平気で他人を怒らせるし、悪口も言いたい放題だし、およそ八方美人には程遠い。
 しかし、面白いことに、こうした性格が幸いして、私は人々にビジョンを与えることが出来る。
 もちろん、世の中には、私とは正反対のタイプのリーダーも存在する。それは、自身の考えを沈思し、他人の意見に耳を傾け、和を持って尊しとなすというタイプのリーダーである。しかし、こうしたリーダーに従う人間は、えてして自分自身の保身の為に、既得権益にこだわり、職場マフィアを形成するのが得意であることが多い。そう、あなたも想像したように、こうした人達は、私が心底忌み嫌う、団塊の世代の人達の特徴である。
 私は、初めからこうした人達は相手にしない。そして、全体を狙わず、部分を狙うのである。つまり、私にとって、ターゲットではない人達との対人関係のスキルなど、特別意味はないという訳だ。

 もう1つ、私は戦略的知性という言葉が好きだ。私が買ったホーネット600は、『ツーカー』のようなオートバイである。高性能や多機能は捨てたのである。そう、犠牲なくして戦略はありえないのだ。
 現在、ロードスポーツタイプのオートバイをセレクトする人は、スーパースポーツ車の高性能を味わうか、ツーリングライダーになるかの二者択一である。
 しかし、私はクルマで言うところの、“スポーツカー”というカテゴリーがオートバイの世界においても欲しかった。私の友人は私に言った。「スポーツカーとは、その人がスポーツだと思えば、例え軽トラックでも、スポーツカーになるもんだ」と。私は試しに自分の軽トラックでスポーツしてみたら、スピンしてコンクリートの塊に激突した(笑)。幸い、車両保険で私のスポーツカーは無償で修理されたが、私には軽トラック以外にスポーツできる乗り物が必要なことが分かった。
 そして私はホーネット600を買った。
 スーパースポーツ車ではないが、私はこれで楽しくスポーツライディングする予定である。そして、スポーツネイキッドというカテゴリーを成熟させたいと思う。これが私の新しいヴィジョンだ。

 私は安定を捨てて、リスクを冒してでもヴィジョンを実現する勝負に出る気概を持っている。
 “おかみ”にあって、私にはないもの、それは、“権力”“経済力”“名声”である。私は幼少期に父に教わった。「“権力”“経済力”“名声”を追い求める人間にはなるな。そして、“権力”“経済力”“名声”を追い求める人間は信用するな」と。私は父の教えを忠実に守ると共に、ヴィジョンを追い求める人生をセレクトした。
 私にあって、“おかみ”にないもの。それはヴィジョンに対する思いと、それを実現する為であれば、他は切り捨てるという冷厳な判断力である。

 では、具体的に宣伝させてもらおう。最近立ち読みした『モーターサイクリスト』誌にて、かの有名な梨本圭氏は、SS600と750ネイキッドの中間に位置するオートバイが、楽しいオートバイとしての落としどころではないかというような記述をされていた。大変に的を得た分析だが、仮に675ccのネイキッド車が新車で開発されれば、販売価格は100万円前後となってしまうだろう。つまり、“楽しい”は実現されるが、経済性は無視されてしまう。そこで私が提唱しているのが、ホーネット600の中古車を40万円以内で購入することである。

 なぜならば、デーウー(ウデ)に自信のあるライダーであれば、100万円のオートバイであろうと、転倒リスクに対処する心構えと、転倒リスクを低減させるテクニックを持っているだろうが、ビギナーライダーにとっては、200キロもの鉄やアルミの塊である、ましてや100万円以上もするオートバイをフルバンクさせるのは、まるで新人の外科医が、生まれて初めて患者の体にメスを入れるかのように緊張するものだからである。しかし、40万円程度のとっつきやすく乗りやすい中古車、そうホーネット600のようなオートバイであれば、むしろ早くライディングテクニックを学べるのではないだろうか? また、ベテランライダーにおいても、ランニングコストが安いことは、毎日フォワグラやキャビアを食すよりも、素食で健康を保つかのように、健全にオートバイとも付き合えるだろう。
 えっ? 何々? 大事なことを忘れているって? 仕方がない、正直に告白しよう。そう、ホーネット600のような軟弱なオートバイで、100万円以上もするスーパースポーツ車を追い掛け回すのも、痛快なものである。

 あぁ、ファーストライドが待ち遠しい。




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