Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


過大評価される広告 2005年1月10日 01:05

 さて、現在のホンダの社長は、就職する時にリクルートの担当者から、強くトヨタを薦められたという。逆にホンダは、すぐ潰れるのでやめておけと言われたそうだ。つまり言いたいこととしては、ホンダは2番手3番手のメーカーなので、気概のある人間だけが集まり、その気概がホンダの技術力につながり、ホンダの強さになっているという“お涙ちょうだい”のストーリーである。

 しかし、このストーリーを感動的なものにし続けるのであれば、現在の学生のホンダに対する人気度を低くしておく必要があるだろう。しかし、ホンダに対する現在の学生の人気度は非常に高い。つまり、現在のホンダは、気概のある技術者の集まる場ではなく、ミーちゃんハーちゃんな学生のゴール地点となっている訳だ。結構なことである。ホンダに技術者などいらないのだ。ホンダに必要なのは、マネージメントをフォーカスできる経営者と、ブランディング及びマーケティングの才能が飛びぬけている人材である。

 では、ここではブランディングについて語っていこう。私がさんざんバカにしているホンダも、実のところ、素晴らしいブランディングで成功した経験を持っている。以前にも紹介した『アキュラ』だ。
 アキュラだけではなく、トヨタ、ホンダ、ニッサンは、アメリカの高級車市場に進出する際、既存のディーラーは使わず、それぞれ、レクサス、アキュラ、インフィニティという新規のブランドを使って成功した。特にレクサスは、ベンツやBMWをも凌ぐ大成功を収めている。
 もちろんこうした戦略を取らずに失敗したブランドもある。『ディアマンテ』だ。ディアマンテは、既存の三菱のディーラーを使って販売したが、大失敗した。アメリカ人は、ディアマンテと呼ぼうが、それが三菱で販売されている限り、大衆車だと思ったのだ。私がカワサキ、スズキ、ホンダに対して、4サイクル4気筒車にフォーカスすることを訴えている理由が分かるだろう。トゥデイとCBR1000RRを並べて販売した場合、CBR1000RRのパブリシティは弱まり、CBRのブランドバリューを引き下げるのである。

 また、単一ブランド単一商品という戦略は、PR効果を高めることにも有効である。私がベタ褒めするハーレー・ダビッドソンは、HOG(ハーレー・オーナーズ・グループ)というイベントを開催することで、顧客を常連化させ、彼らのクチコミにより、友人や知人を更に呼び込むというPR活動につながっている。HOGは、世界中に1200支部があり、会員数が60万人を超える世界最大の2輪車クラブとなっている。

 そう、ブランドを作るのには、PRが1番なのである。広告はブランドを築けない。しかし、多くの人達は、全く勘違いしている。ブランドを築くには広告が必要だと考えるのだ。しかし、広告は将来の利益を約束するお守りではなく、ライバルから自分の商品を守る保険と考えた方が良い。
 そう、広告は、すでに確立したブランドを維持する為に利用されるべきであり、新ブランドを立ち上げる際には、広告はほとんど全くといっていいほど効果がないのである。そうした意味で私が考える広告を出して効果があるブランドは、ナイキ、シャネルである。
 ナイキやシャネルの広告では、商品自体は宣伝していない。すでに認知されているブランドバリューに対して、更にその認知を強固にする為に広告を出しているのである。しかし、多くの企業は、商品を売る為に広告を打つ。そしてほぼ確実に失敗する。なぜか? 広告代理店の次の言葉に騙されるからだ。「広告を出さないと商品は売れませんよ」。非常にごもっともな響きがする。しかし、広告代理店は自社の広告を出すことはない。それだけ効果があるのならば、なぜ広告代理店は自社広告を出さないのだろうか? いや失礼、広告代理店も広告を出している。それは求人広告である。恐らく営業マンの定着率が悪いからだろう。そう、中身のない仕事につくと、人は転職を考えるのだ。

 え〜と、何の話だったか? そうそう、本当はブランディングの話だったが、面白くなってきたので、広告について語ろう。
 広告に対しては、私自身が高い授業料を支払ってきたのだが、では、私が以前経営していたショップや、ロムシーの歴史を紹介することで、広告の茶番性について語ってみよう。

 私が『MY CONCEPT』というショップを開いたのは、22歳の時だったが、ご多分にも漏れず、最初に私は広告を打った。広告を出した雑誌は、『サイクルサウンズ』誌である。たしか2〜3ヶ月に渡って広告を出したが、皆さんは広告の効果がどれほどあったと思うだろうか? ゼロである。もう1度言おう、ゼロである。私は多分1回に15万円位の広告費を支払ったと思うので、恐らく30〜45万円の高い授業料となった訳だ。

 その後、私はロムシーを開催するようになったのだが、広告は効果がないことを学習したというよりも、どちらかと言うと予算がない為に、ロムシーの参加者は、主に雑誌のイベント情報にて集った。私は原始的な“手紙”という手法で、自ら切手を貼って、大体全ての国内2輪専門誌に対して、イベント情報掲載の依頼を行った。つまり広告を使わず、PR活動だけてしていたのである。
 結果、ロムシーへの問合せは次第に増えてきて、翌年にはだいぶ参加者も増えた。すると、当時の『ライダースクラブ』誌の編集部員だった浦田さん(結婚おめでとうございます)が、副編集長を連れて取材にいらした。そして、『ライダースクラブ』誌にロムシーが紹介されると、更に参加者が増え、私は雑誌の取材記事というのは、非常に効果が高いことを知った。(同時に私は『ライダースクラブ』誌は偉大な雑誌だと認知した)つまり、この取材記事もPRになった訳である。その後、私は断腸の思いで、参加者の激減を覚悟で、エントリーフィーの値上げを行ったが、この時に強行に値上げを反対するエントラントもいた。ところが、再び『ライダースクラブ』誌に2ページ見開きでロムシーの紹介記事が掲載されると、参加者は激増し、同時に参加料金も値上げしていた為、なんとロムシーは黒字になってしまった。全くもって嬉しい誤算である。
 しかし、1994年には参加者も減ってきたので、私は起死回生をはかるべく、愚かな行為に出た。広告を打ったのである。私は広告代理店の営業マンを呼びつけ、最も発行部数が多い雑誌を尋ねた。答えは『ヤングマシン』だった。皆さんは信じられるだろうか? なんとアーブ山口は、あのお下品な『ヤングマシン』誌にロムシーの広告を打ったことがあるのである。キャバクラに行った経験があることを白状するよりも恥ずかしいカミングアウトだ。(笑)さて、皆さんは結果はどうなったと思うだろうか? 結果はゼロである。もひとつオマケに、結果はゼロである。当時発行部数の多かった『ヤングマシン』誌での広告掲載の結果は、参加者の増加どころか、問合せ件数すらゼロ件だったのである。

 この賭けに失敗した私は、結局1994年で一旦ロムシーを中止してしまい、その後、1996年に再びロムシーを復活させようと思ったのだが、私は少しは学んでいたものの、またまた広告で失敗してしまった。私はそれまで、前述したイベント案内という形にて、各雑誌にパブリシティー(広告を出さずに広告の効果を上げること)をかけていたが、1番効果があったのが、『バイカーズステーション』誌だった。私はこの統計を元に、1996年の復活の際には、『バイカーズステーション』誌に広告を出してみた。結果はどうなっただろうか? 結果はゼロである。もひとつオマケに、結果はゼロである。そう言えば今思い出したが、『MY CONCEPT』の広告も『バイカーズステーション』誌に出していたが、効果は全くなかった。

 こうした私の経験は、22〜25歳当時のものなので、今思えば、くだらない学生生活に高い学費を支払うよりかは、経営者として学ぶ為に支払った授業料として、今なら納得できるものであるが、もしあなたが個人事業主で、広告を出そうか出すまいか迷っているのであれば、授業料は低く抑えた方がいいだろう。もちろん私の意見を聞き分けることができればの話だが。

 ちなみに、私は2002年にロムシーを復活させた時には、さすがに年齢も35歳になっていたので、一切広告は出さなかった。また、パブリシティーすら、最初の1〜2ヶ月でやめてしまった。統計的に見ても、10年前に比べ、パブリシティーすら全く効果がなくなっていたのである。私は確信した。国内2輪専門誌は終わったと…。
 そう、代わって私が味方につけたのは、インターネットである。この効果はすさまじかった。新規の参加者はインターネットでまたたくまに増加し、もはや国内2輪専門誌を敵に回しても痛くもかゆくもないと私は考えた。もう私はボンクラなライターや、名刺交換すらできない編集長や、頭がゲロ悪な広告代理店の営業マンとクチをきく必要がなくなっただけでなく、ストレートに広告費というお金を節約できるようになったのである! おおっ! インターネットよありがとう! 『ロードライダー』誌のセニョール月岡よさようなら!

 さてさて、私個人の経験談では説得力にかけると思われるので、広告は効果がなく、PRは効果が高いことについて語ろう。
 以前にも記述したが、消費者はますます広告を信じなくなってきているどころか、広告に対してうさんくさく考えるようになってきているのである。
 もし誰かが商売を始めた時には、そりゃ〜誰だって、自分の売る商品やサービスの素晴らしさを披露することだろう。しかし、消費者はそんな宣伝はすでに聞き飽きているのである。
 しかし、第三者から聞いた途端、消費者は行動を始める。つまり、これがPRである。

 良い例を上げよう。今から10年前に、国内のサーキットでメッツラーを履こうと考えたライダーはいただろうか? いない。現在はいるだろうか? 大勢いる。なぜか? メッツラーのPR活動のたまものである。
 メッツラーは我が国のサーキットでシェアを広げるに当たって、何か効果的な広告展開をしただろうか? 特別なことはやっていないだろう。しかし、サーキットには足を運び、ユーザーにサービスし、実際にメッツラーを履くライダーからクチコミで商品が広がっていったのである。
 では、これまでに争っていたダンロップとブリヂストンについても考えてみよう。世田谷通りでタイヤショップを経営しているスピード☆スターの水口さんのお話を聞いていると、最近のタイヤのセールスでは、ダンロップは劣勢で、ブリヂストンが優勢な印象を強く受ける。これはWGPの宣伝の効果だろうか? それもあるだろう。しかし、実際にはブリヂストンが主催する低予算な走行会などの、草の根的なPR活動が大きく貢献しているように私には思える。
 ブリヂストンのセールスの良さは、PRによって生まれ、そして確立したブランドバリューは広告でキープしているのである。素晴らしい戦略である。

 しかし、多くの経営者、大企業から街のバイク屋の父ちゃん社長まで、ブリヂストンの成功は、広告のおかげだと考えるのである。そして、自分が成功する為には、広告を出す必要があると思うのだ。木を見て森を見ない戦略である。
 繰り返し言おう。広告費は、成功してから確立したブランドバリューを、ライバルから守る保険として支払うべきである。広告を出して売上を上げようと考えてはならない。

 もしこれを読むあなたの経営する会社の屋号が、『ヨシムラ』、あるいは『モリワキ』だったとしよう。あなたの屋号には充分なブランドバリューがある。従って、今後現れるライバル達から自分のブランドを守る為に、広告を打つべきである。しかし、もしあなたの経営する会社の屋号が、聞いたこともないような名前ならば、広告を打つべきではない。とにかくPR活動に専念すべきである。

 数字を出してみよう。GPファンならば、『レッドブル』というスポンサーを知っているだろう。残念ながら、我が国では知名度がないが、レッドブルはオーストリアのスポーツ飲料メーカーである。
 レッドブルは、最初は主にPR活動によって売上を伸ばしていったが、年間売上が1000万ドルを超えるまで、4年もかかった。そして、1億ドルの売上を超えたのは、その5年後だった。そして、2002年には売上は10億ドルとなり、GPマシンに広告を貼っても良い会社になった。このストーリーで思い出される昔の格言は、“一夜にして財をなすには、何十年もの準備が必要”である。

 しかし、多くの経営者は、いきなり成功したいと焦るあまり、広告に救いの手を伸ばしてしまう。(若き日の私もそうだった)そして、広告代理店の営業マンは、まるで麻薬の売人のように忍び寄ってくる。そして経営者はヤクを注射してしまうのだ。広告という名の麻薬を…。

 皮肉なことに、広告はすでに成功した企業が出すものだというのに、まだ成功していない企業が出すことの方が多い。しかし、金持ちはロレックスの時計をしてベンツに乗っているが、ロレックスの時計をしてベンツに乗っても金持ちにはならない。むしろ破産するのがオチである。
 もしあなたが金持ちになりたいのならば、金持ちが現在行っていることをマネするのではなく、金持ちが金持ちになる前に行っていたことをマネするべきである。

 そして、広告代理店も、金さえ支払ってくれるのであれば、相手が誰だろうとかまわないと考えている。本当はナイキやシャネルのような仕事がしたくとも、小さな代理店は、零細企業を相手にするしかないのだ。つまり、広告代理店は自らの使命に忠実なだけで、彼らはバカではない。バカなのはそれを利用する我々なのである。

 しかし、素人が広告は効果があると信じていることとは裏腹に、メーカーは前述したHOGを参考に、地道なPR活動も行っているようで、大変結構なことである。最近の成功例では、やはりKTMの招いたボリス・シャンボン選手のPR活動だろう。ボリス・シャンボン選手の走りは話題性があったので、多くの雑誌が飛びついた。これによりKTMはラクに自社製品をPRすることができた。また、前述したブリヂストンの走行会や、ホンダが行っているCBRチャレンジカップや、スズキが行っているGSX-Rカップ、カワサキのKAZEなど、こうした草の根的な地道なPR活動は、実際の販売に結びつく活動であり、販売成績がよくなってから広告を出すと、初めて広告は自社のブランドバリューをキープすることにつながるのである。しかし、何度も言うようだが、広告で売上が上がることはほとんどない。従って、まだ無名のアフターパーツブランドや、ただのバイク屋などが広告を出しても、みすみす金をドブに捨て、広告代理店を儲けさせるだけだ。使い古された言葉を使わせてもらえれば、“経験者は語る”のである。

 あんど、誰からもホメられることのない、サーキットで様々なサービスを行っている方達、地道なPR活動を行っているメーカーの社員の皆さん、ナップスの駐車場で自社の商品をPRしている方達、こうした人達に私は拍手を送りたいと思う。あなた達の働きはジワジワと報われることだろう。誰からもホメられなくても、このまま頑張って頂きたいと私は切に思う。アーブ山口はあなたを応援するぞ!(インチキな商品は売らないで下さい)
 しかし、広告さえ出しておけば客が店にやってくるだろうと考えている手抜き経営の全ての経営者に忠告すれば、あなたの手抜き経営は報われないだろう。消費者はすでに賢明なのだよ。
 そして、ここまで言っても私の言うことは信じられないという方に対しては、スター・バックスの創業者の意見を紹介しておこう。

 「消費者は従来ほど広告に注目しないし、たとえ見ても内容は信じてもらえない。広告では新しいものをなかなか打ち上げられない時代になっている。広告費用もバカにならない。高額な広告料を払えば、それだけ見返りがあるはず、といまでも信じている人の気がしれない」

 細く説明すれば、スタバはコーヒー専門店だということや、喫茶店なのに全店禁煙にしたりと、それまでの常識を破った新しいコンセプトにより、メディアに充分な話題性を提供した。つまりPRがうまくいったので成功したのだと私は考えている。
 多くの人達の常識とは裏腹に、成功に広告は必要ない。成功を守る為に広告は必要なのである。

★追伸
 昨年の日記にて私は、その名もミステリーサークルという社会人サークルを発足させると記述したが、名前からして冗談だと分かるだろうと思っていた所、聞くところによると、多くの方が発足を信じているだけでなく、それを楽しみにしている人が多いとのことだった。私はこれに対して申し訳ないと思ったので、政界人財界人が利用すると言われている超高級料亭の『吉兆』で新年会をやると言っておけば、さすがに冗談だと分かるだろうと思ったが、「是非参加したい」といったメールを頂き、困惑してしまった。いくらなんでも吉兆は無理ですよ。(笑)
 しかし、当日飲む約束をしていた友人ですら、私が「約束をすっぽかして吉兆に行っているのでは?」と焦っていたらしいので、どうやら私の日記では冗談は御法度なようだ。(笑)
 最後に日記らしいことを書けば、飲んでいる時に友人から聞いた情報で、私が持つ銘柄の1つである、『コナミエンターテーメント東京』が、親会社のコナミに吸収合併されてしまうことを知った。私が購入する銘柄は、あまりにも株価が安い為に、親会社に吸収合併されたり、外資に買収されてしまうことが多いのだが、内心、「またかよ!」と思った。2年前には、『シートゥーネットワーク』という会社が、やはり買収により上場廃止となり、私は泣く泣くこの銘柄を売ることになってしまったが、今回は上場廃止ではないので、またまた色々と調べるのがメンドクセーなーと思っている今日この頃である。う〜ん、最後だけ日記らしい。(笑)




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