Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


過小評価されるブランドの力 2005年1月5日 10:03

 誰もがホメる者をさげすみ、誰もがけなす者をホメる。これがアマノジャクの特権だろう。

 さて、私がお正月にテレビCMを観ていて、改めて素晴らしいと思ったのは、『ツーカー』である。
 残念ながら、この企業は上場していないので、業績は分からないが、どうやら携帯電話会社の中では、唯一契約者が減少しているブランドらしい。
 しかし、私としては、この企業をホメない訳にはいかない。しかし、本当にホメるべきは、親会社のKDDIかもしれない。
 ツーカーは、昔はCMに浜崎あゆみを使っていたが、それはターゲットを若者にしていたからだろう。しかし、最近では、ターゲットを中年と年寄りに絞り、他は切り捨てた。もちろん、ここで言う所の“他”とは、携帯電話に“多機能”を求める人達のことである。これこそ、私が以前から提唱する、「犠牲なくして戦略はありえない」を地で行く企業だ。しかし、KDDIが“確信犯”ならば、携帯に多機能を求めない人向けの携帯を売る為に、もしかしたらツーカーを利用したのかもしれない。もしそうだとしたら、“何でも屋”でフルラインにするよりも、スピンオフの方が優れていることをKDDIは知っていたのかもしれない。

 携帯電話会社は複雑なので、自分の得意分野である、2輪業界に話を移そう。
 ところで、日記を書いていて自分が得をすること、それは、自分の頭の中が整理され、新たな発見があることである。
 そして、私が昨年日記を書いていて気付いたことは、WGPに参戦するメーカーの株は、何であれ“売り”だということだ。
 もちろん私はGPファンだが、これは得意のダブルスタンダード(二重基準)である。
 さて、仮に皆さんが投資家だとして、経営者のやるべき仕事は何だと思うだろうか? 私が考える経営者の仕事は、たったの3つである。

 その1 売上をあげ、
 その2 そこから経費を差し引き、
 その3 利益を出す。

 これだけである。
 では、オートバイメーカーにとって、WGPの参戦とは何だろうか? それは、“経費”である。
 では、↑の順番で言う所の、“売上”をメーカーは上げているだろうか? 上げている。そう、WGPに参戦するメーカーのほとんどは、本業で売上を上げ、その成功体験をキッカケにGPに参戦してくるのである。
 ここで皆さんは、以前私が記述した言葉を覚えているだろうか? そう、企業は、成功すると傲慢になり、傲慢になると失敗するのである。
 私が思うに、国内メーカーは、全てこのワナにハマったと言える。WGPに参戦せずに、我が道を行き、本業に特化している素晴らしい企業は、ハーレー・ダビッドソン社くらいなものである。
 私が素晴らしいと思っているドゥカティですら、ワザワザL2のブランドバリューを下げる4気筒のマシンをWGPに投入してしまった。
 しかし、今回は別の愚かなメーカーについて語ろう。そう、国内2輪専門誌の全てがGP参戦に対して歓迎ムード一色のあのメーカーである。そのメーカーの名前は! さぁー皆さん御一緒に! 「けーてぃーえむ!」
 そう、かの有名なKTMである。

 KTMとは何だろうか? それはモトクロッサーであり、最近の名声はモタードであり、ボリス・シャンボンである。
 そう、KTMに対する消費者の知覚は、モトクロッサーであり、モタードであり、ボリス・シャンボンである。
 しかし、KTMは最近の成功に気をよくして、自分達のブランドを冠せば、ロードスポーツ車も売れると考えた。
 そして、手始めとして、WGPへの参戦を決めた。“おごれるもの久しからず”という訳だ。
 全くバカげている。全くバカげている。全くバカげている。否、ストレートにバカだ。
 KTMは、私の言う所の、成功は傲慢につながり、傲慢は失敗につながるを証明するメーカーとなるだろう。残念である。
 KTMは、ロードレースに参戦する費用があるのならば、すでに確立したモタードのイメージを強固にすることに全身全霊を傾けるべきである。仮にモタード専門のブランドが新たに登場して、KTMを追撃したならば、そのメーカーはロードスポーツでイメージが希薄化したKTMの弱点をつくことだろう。今のところそうしたメーカーは私には思い浮かばないが、早急にKTMは本業へのフォーカスを取り戻すべきであり、もしどうしてもロードスポーツの分野に進出したいのであれば、何度も言うようだが、ロードスポーツ車専門の新規ブランドを立ち上げ、スピンオフ(分社化)すべきである。そう、KDDIがツーカーでやっているように。

 国内2輪専門誌のアクビが出る程に退屈なモノの見方は、WGPに様々なメーカーが参戦することが、素晴らしい出来事だという見方である。WGPに様々なメーカーが参戦し、どのメーカーが1番素晴らしいメーカーなのかを、消費者は知りたがっているという訳だ。たいそう御立派なジャーナリズムである。
 しかし、残念ながら、WGPで優勝することは、ビジネスの成功に結びつかない。逆である。ビジネスの世界においては、WGPは敗者のゲームである。
 WGPへの参戦は、メーカーの傲慢さと、株主軽視の姿勢の最大限の証明書である。
 1950年代に活躍したイギリスのオートバイメーカー、ノートンやAJS、これらのブランドは、どこかへ行ってしまった。そして1970年代まで活躍したMVアグスタは、その後消えたが、最近になり高級路線で復活した。しかし、WGPには参戦していない、賢明である。そして、復活したMVアグスタは、WGPなど参戦せずとも、それなりのセールスを誇っている。結構なことである。そして1970年代に台頭してきたヤマハとスズキは、1970年代後半から1980年代にかけて築き上げた2サイクルのイメージを現在は生かしきれず、フルラインに手を出し、自社のオートバイをただのパリティ(ありきたりな)商品に成り下げた。ホンダも後を追った。昨年ホメたカワサキも、ZX-10Rのセールスは“にわか景気”であり、これを持続させる為にWGPを利用するのは前途多難であり、長期的には多大な出血を伴うことだろう。しかし、アプリリアはすでに悲劇で、会社自体が倒産の憂き目を見た。そしてドゥカティもワナにハマった。KTMもワナにハマった。ところが、1904年に初めてオートバイを造り、1907年にVツインエンジンを造り、1909年にVツインエンジンのオートバイを量産してから、今もずっとこのエンジン形式のオートバイを作り続けているハーレー・ダビッドソン社は、WGPには一切興味を示さず、株主を安眠させている。グレートである。

 前回の日記にて、ヤマハやスズキのアジアでのセールスの良さを調べた結果、私は国内メーカーはコモディティ企業に成り下がったことを改めて痛感した。コモディティとは、ブランドバリューのない日用品のことである。
 日本メーカーのオートバイにおけるアイディンティティーとは何だろうか? 私が思うに、それは並列4気筒車である。厳密には、MVアグスタに代表されるように、大昔にすでに並列4気筒車は存在していた。しかし、年寄りはやがて自然死する。現代人の知覚に残っているのは、1970年代後半から1980年代前半にかけての、スーパーバイクでの日本車の活躍であり、並列4気筒車とポップヨシムラが発明した集合菅である。
 私が思うに、国内メーカー、特にカワサキ、スズキ、ホンダの3メーカーは、並列4気筒車に特化すべきだと思う。そして、他の優れたエンジン形式の開発は、中国を初めとする、アジアの国々に譲り、WGPで技術を競わせるのである。大丈夫、“おごれるもの久しからず”だ。(笑)

 えっ? 何々? アジアの国々が技術力で日本を追い越すのは脅威だって? 私の日記で何を学んだのだね、君は。
 現在、我が国にとって最も脅威なのは、技術力ではなく、ブランド力なのだよ。あなたはロレックスがセイコーやシチズンよりも正確に時を刻んでいるとお思いかね? むしろ多少狂っている方が、はめている者も「俺のロレックス、ちょっと遅れてるんだよ、ガッハッハー」と隣のステホス(ホステス)に自慢のキッカケを作りやすいだろう。あなたはマイクロフトのOSが素晴らしいとお思いかね? 恐らくA型気質の日本人が作った方が、こんな脆弱なOSにはならないだろう。あなたはフェラーリの市販車がまともに走るようになった理由を知っているかね? ホンダが技術協力したからだよ。しかし、フェラーリはNS-Xよりも永遠に高値で取引きされるだろう。なぜならば、フェラーリだからだよ。あなたは250万円から360万円もするMVアグスタが、120万円のCBR1000RRよりも2倍も3倍も優れているとお思いかね? あるいは、MVアグスタのオーナーが、MVアグスタがWGPに参戦して性能と品質を証明していないことに不満を持っているとお思いかね? スーパースポーツのオートバイを買う小金持ちは、日本車にないブランドバリューがあるドゥカティを買うだろう。しかし、それよりも一段上の金持ちは、1番高価なオートバイを買うだろう。MVアグスタである。MVアグスタを買う医者や弁護士がMVアグスタを買う理由は、高価格だからである。“高価格”、なんと素晴らしい響きだろう。

 繰り返し言おう、技術力が優れる我が国の上位100社の利益率は1.1%で、ただの砂糖のかたまりみたいな飲み物であるコーラを売っている企業を含むアメリカの上位100社の利益率は6.3%である。

 何度も言うようだが、証拠は揃っている。メーカーは自身のブランドを育てることに全精力を傾けるべきであり、フルラインは今すぐやめるべきである。中国の成長が脅威だって? ナンセンスだ。奴らはすぐにフルラインに手を出すだろう。今こそ我々はアメリカが我が国をさげすますように、中国をワナにはめ、ラインを絞り、ブランドを築き上げるべきなのだよ。




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